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コレクティブハウジングただいま奮闘中




書評




住宅 2000.11

 住居は年月と共に絶えず変遷発達するが、その変化は一様でなく、しばしば或る事件を契機として新たな住居形式や居住システムが生まれる。奇妙なことだが大災害がその契機となることが多く、関東大震災の後には「同潤会アパート」、第二次大戦の窮乏の時代には住宅営団の「型計画」の理念、戦災の後には「高輪アパート」と公営住宅の新しい住様式、オイルショックの後には「六番池住宅」と公共住宅の新しい波が生まれた。
 阪神・淡路大震災の後には何が生まれるか?私自身がその中に居ながら、半ば期待し半ば自らにも課していたのだが、残念ながら耐震・安全と緊急大量建設の要請に追いまくられて、新たな住居、住様式を生みだす余裕がなかったというのが実状である。しかしその中で唯一特筆すべきものが、復興公営住宅における「コレクティブハウジング」の創生であり、これは後世に記憶されるべきものとなろう。
 コレクティブハウジングとは協同生活を織り込んだ居住形式で、とくに北欧諸国などに発達した。複数の世帯が集まって住み、各戸の独立した生活を基礎としつつ、食事その他の家庭生活の一部を共に行うこともでき、互いに助け合い共に愉しむことを可能にする住まいである。
 都市計画プランナー石東直子氏は、阪神大震災直後の救援ボランティア活動の中で下町被災地区の高齢者たちの実態をつぶさに見、彼らは互いに助け合わなければ生きて行かれないことを痛感して、それにはコレクティブハウジングが正に相応しいと考えた。そこで都市計画事務所コー・プラン代表の小林郁雄氏らと「コレクティブハウジング事業推進応援団」を組織し、神戸市に働きかけ協力してこの事業を推進した。この方面の研究者、日本女子大教授の小谷部育子氏にも教えを乞い、北欧に翔んで彼の地の実態を学び、仮設住宅を巡って被災者たちと接し、行政上の様々な壁とも折衝し、多くのボランティア達と協力し、新しい協同生活の場の実現に力を尽くした。こうしてその第1号の「神戸市営真野ふれあい住宅」を立ち上げたが、その間、数回のワークショップの開催や仮設住宅を巡っての出前説明会などの努力は並大抵でない。幸い兵庫県もこれに共鳴し、県・市あわせて10カ所の「公営コレクティブ・ふれあい住宅」が建設された。これら住宅の運営や生活の援助にも応援団は献身的な努力をしている。
 この本には、ことの発端から経緯、数々の困難やら、仮設住宅のオバサンたちとの心温まる交流やら、市や県の職員の努力やら、ボランティアの学生たちの真摯な協力やら、制度の壁やら、思い掛けない展開や挫折や回生やらが、その場その場の雰囲気や感情まで交えて清々しい平易な言葉で語られている。時には跳び上るような嬉しさを、時にはがっくり落ち込むもどかしさもそのまま素直に表現され、読む者は知らず知らずに引き込まれる。これまでの日本にはない事業を立ち上げようとしているのだが、そんな気負いは露ほども見せず、明るく愉しみながらやっているように見せているのが憎い。
 実はこの公営コレクティブには疑問を挟む人がないわけではない。コレクティブハウジングは本来自主的に協同生活を志向する人々の集まりで、公募して入居する公営住宅では趣旨と異なるとの意見や、震災復興という事業のため高齢者用住宅という誤ったイメージを与えかねないとの声もある。しかし日本の状況に照らし幅広く考えればこれも一つの形態であることは間違いないし、何よりもコレクティブハウジングを初めて日本に根づかせた功績は大きく、その後各地に協同居住を志向した公共・民間の住宅が現れつつある。そしてこの本はこれを全国に広める役割を果たすだろう。
 記録としても運動の指針としても貴重だが、更に加えて読み物としても記憶に残る本である。

神戸芸術工科大学 鈴木成文先生



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