現実の、仕事の中で遭遇したトラブルやクレームの、あの苦い経験を、ひとり担当者の失敗や恥にとどめず、客観的に検討し、建築に携わる私どもの共有に転じ、反省の糧とすることは有意義である。
トラブルやクレームを公にするには一般に色々差し障りも多いのであるが、研究会での話を進めるための必要から敢えて持ち寄ってみれば、話題として出たものだけでもその事例は数多く、むしろ絞り込むのが大変であった。事例の選択を経て分担執筆し、各自の原稿を批判し合って改稿を重ねた。非常にレベルの高い、詳細な記述もあったが、全体の紙幅の制約もあり、必ずしも充分意を尽くし得なかったとの思いも残っている。また、平易で統一された表現にも意を用いたつもりだが、これらの結果については読書諸賢の御批判に侯ちたい。
日本建築協会からの委嘱を受け、本書の準備がスタートしたのは昨年3月であった。以来ほぼ毎月の会合を経てようやく今日に至ったが、この間、協会出版委員会の舟橋國男委員・学芸出版社の吉田隆編集長には多大な御世話になった。記して謝意を表したい。
1985年6月4日