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建築金物の知識




まえがき



 現代建築といわれている有名な公共的建築物の多くが、西洋風建築であるように、私達の生活の中に無意識のうちに西洋建築様式が浸透してきている。独自の伝統を保つ日本建築様式は、ごく一部の建物を除き一般の人々から離れ、西洋風建築様式が主流となってきたことは、経済的理由があるにせよ、その居住性・合理性・機能性において優れたものがあることを証明しているといえる。
 その中で建築金物も当然ながら流れを同じくしてきた。特に金物は西洋建築様式から取り入れられたものが多く、日本古来の建築金物とは基本的に考え方が違っており、耐久性・機能性のみならず、安全性・防犯性・装飾性が充分生かされている。
 私達の身近に建てられている建物のほとんどが、純粋な西洋建築ではないにしても、いわゆる西洋風であることからして、自然に金物も西洋式のものが多くなる。さらにマイホーム購入も遠い夢でなくなった今、一般の人々の建築金物への関心も高まり、興味を示しはじめている。また、だれもが比較的簡単に海外旅行する昨今、外国を見たり、外国製の金物を見る機会が増えることにより、見る目が肥えてきていることも、西洋式金物の普及発展に大きく寄与していると考えられる。いわゆる本当の良さを見る目が育ってきたともいえる。その意味において、わが国の建築金物に関する限り、舶来崇拝思想がほとんどなくなった。
 このように西洋風建築が主流となってきた背景の中で、建築金物も他のものと同じく多分に変化してきた。それは建物における金物の地位や、重要性の認識が高まった結果といえる。
 あらゆる建造物にとって建築金物は必要不可欠のものであるが、では具体的に“建築金物とは”と聞かれて何を頭に思い浮かべるであろうか。一昔前ならば、戸車・レール、そして捻子締りといった引戸金物が中心であったが、今日では、錠前・ドアハンドル・蝶番・ドアクローザといった開きドア金物があげられることだろう。もちろんこれらの金物が現在の建築金物の主流であるが、これらは分類上からすれば建具金物に分類される。
 どんな建物にも外部との接点に開口部があり、そこには扉や窓などの建具が取り付けられる。そしてその建具には必ず錠前をはじめとする金物が付けられる。建物全体からすれば極めて小さいものであるが、建具に開閉の機能もあたえ、建物の防犯の役割といった大きな責任を果たすことになる。
 建物を造る場合、その建物の用途・役割・目的などを深く考えないで金物を使用すると、建物を利用する人々や、住む人に不便や不都合を感じさせる結果となる。また金物を使用する立場からすれば、金物は人々の生命や財産をも守る砦ともなるものである。
 したがって金物を作る立場、そして建物を設計する立場の我々の任務は重要である。設計者の考え方や判断により、金物がその建物に生かされて使用されるかどうかが決まる。そして建築金物に対する認識の度合い、金物に関する見識の深さの違いが、その建物の出来栄えに大きく影響するといっても過言でないと考える。
 最近では建築金物と呼ばれている中に、必ずしも金属製でないものもある。これらは名称こそ変わらないが材質がプラスチックになったりするものも多いが、その用途からして機能的にはより良い使用条件に合ったもので、その使命を果たしている。
 これからますます建築金物も、社会の変化に応じて流動的な要素をもちながら進歩発展を遂げるものと考えるが、これらに関連する事業に携わる我々の動き方ひとつで、その方向が左右されるものと自負している。その意味で本書の読者を含めた我々の責任も重大であるといえる。
 本書においては、スペースの関係もあり、建築金物を代表する建具金物を主体として建築金物の基本を理解していただけるために記述を試みた。
 建築業界および建築に携わられる方々、またこれから関連する仕事に従事しようとされる方々、そして金物に興味を示されている方々には、是非建築金物の入門書として参考にしていただければ幸いである。
 本書の発行にあたり、ご指導とご協力を賜った各金物メーカーの関係者、そして(社)日本建築協会出版委員会の諸先生方、および学芸出版社の吉田隆氏に心より感謝の意を表する次第である。
昭和57年2月
立野一郎



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