いま、都市をつくる仕事
未来を拓くもうひとつの関わり方

はじめに─期待と戸惑い


 魅力的な都市には必ず魅力的な人と仕事が存在している。都市とそこでの人々の生活は、直接目には見えない数多くの仕事によって支えられている。なかでも都市の将来ビジョンを描いたり、都市空間のデザインやコミュニティの再生に携わったりする仕事は、都市の魅力のあり方を考える上で重要な役割を担っている。本書では、このような「都市をつくる仕事」の昨今の変化の兆しを捉えることで、一般的に想像される都市計画やまちづくりの仕事だけではない、もうひとつの都市に対する関わり方を探ることを試みている。
 私たち“次世代の「都市をつくる仕事」研究会”のメンバーは、20〜30代のコンサルタントや建築家などの実務者、行政職員、研究者や学生などであり、都市への関わり方は様々である。「自分たちと同じ年代の若手は、いったいどのように都市に関わっているのだろう?」これからの都市計画を考えるにあたっての素朴な疑問から「都市をつくる仕事」を巡る探究がはじまった。
 ここで言う「都市をつくる仕事」という言葉には、二つの思いを託している。一つは都市の「つくり方」が多様になってきていることへの期待である。都市の課題が複雑かつ多様化していることは、その解決が容易でなくなっていることとあわせて、課題に対するアプローチも多様なものにしている。「つくる」というのは、なにも都市空間の計画や整備のように大きな空間の創出や一律のコントロールといった方法ばかりを意味するのではなく、既にある空間やコミュニティに向き合い、都市のあり方や使い方を考え、そのためのルールや主体づくりを通じて都市全体の魅力や公共性のある活動を育むような意味を含んでいる。特に本書で紹介する若手の都市への関わり方は、これまでの方法には捉われない挑戦的な実践と言えるだろう。このような都市への多様な関わり方やその結果もたらされる生活の質から、今後の都市のあり方を考えてみたい。
 もう一つには、このような都市への働きかけをどのように「仕事」にするのかという戸惑いもある。既存の職種や分野の枠では捉えきれないような都市との関わり方はもちろん、既に確立されている職業においても、これまでと違ったやり方で都市に新しい魅力をもたらすアプローチは確実に存在している。しかし、どのようにすればそれを職業にすることができるのかといった方法や、どのような経験やスキルが必要なのかといった情報を得る機会はほとんどない。確立されたステップや枠組みがあるわけではなく、誰もが日々模索を続けている状況であろう。このような「仕事」に就くことを目指す上での可能性を拓くヒントを探ってみたい。
 多様な関わり方による都市の「つくり方」と、それをどうやってプロとしての「仕事」にしていくか。本書では、このような二つの視点から「都市をつくる仕事」のいまを見てみることで、若手の都市への関わり方の実情を明らかにし、今後の展望を浮かび上がらせようとしている。序章では、まず都市に関わることの魅力や可能性について概観している。次に1章では、主に都市の「つくり方」の視点から、多様なアプローチについて10の事例を取り上げている。続いて2章では職種と分野による「仕事」の視点から、魅力的な仕事を実践している若手に対するアンケートとインタビューの内容を紹介している。最後に3章では、これらの成果を踏まえて都市の「つくり方」の変化や「仕事」に携わるための方法などを探っている。
 これから社会に出てこのような仕事に携わろうとする学生や、既に実践の現場で苦闘する若い実務者たちに「都市をつくる仕事」の魅力や可能性を少しでも届けたい。様々な課題を抱えた都市と自分らしい仕事を探す人のための処方箋のような本になれば幸いである。ぜひ「都市をつくる仕事」を実践し、都市とそこでの人々の生活に新しい魅力を重ねていってもらいたい。