今、日本の地域社会のあり方が切実に問われている。
例えば、地域の自然をどのように保全するのか。まちづくりに関心を持つ市民、そして地方の行政に携わる人は誰しも環境保全の大切さを認めるが、総論には賛成でも、各論になると利害が絡み、意見をまとめるのは容易でない。
行政はこれまでありがちだった「上からの施策」への反省もあって、計画を立てる段階から市民の参加を募り、自然公園の管理運営など市民が積極的に関わって欲しいと考えている。そのため、市民の意見を吸い上げる仕組み、ボランティアの育成、市民団体とのパートナーシップが大切だとわかってはいるが、充分な経験とノウハウに欠けるのが実情である。
少子高齢化、教育、福祉も、地域が取り組まなければならない重要課題。すべて行政任せの時代は終わり、市民が必要とするものは、市民自らが築き上げる主体性が求められている。理想の育児を求めて保育園を運営する保護者団体、自立した生活のため共同住宅を建設した高齢者協会など、本書にはまちづくりの主役として社会を動かすドイツ市民が多数登場する。
地域の活性化も猶予のならない問題だ。車に依存したまちのあり方に行き詰まりを感じていても、さて、それに代わる方法となると見当がつかない。郊外の大型ショッピングセンターに客足を奪われ、寂れてしまった商店街を立て直す処方箋はあるのか。個性を失った「ミニ東京」ではなく、そこにしかない特長を活かしたまちづくりのビジョンを描くには?
十把一絡げの危うさを承知で書くと、日本よりドイツの方が地方は断然元気である。「市民団体(市民)」「地方自治体(行政)」「地方社会の一翼を担う事業者(企業)」が、それぞれの立場からまちづくりに取り組むドイツ。一見、方向性はバラバラだが、それらの活動は重なり合い絡み合いながら、最後には「人が主役のまちづくり」という太い流れに収斂する。地方分権の長い歴史、分厚い人材、アイデアを形にする力がドイツのまちづくりを発展させてきた。
魅力に溢れ、活気あるまちを育てるにはどうすればいいのだろう。筆者は、市民・行政・企業が協働し、特色あるまちづくりを進めるドイツの地方社会にそのヒントを見出したい。
拙著『環境先進国ドイツの今 〜緑とトラムの街カールスルーエから』(2004年)の続編となる本書も、筆者の住むカールスルーエ市を主な舞台とする。地元に根を張る人々が築くまちの素顔を描き出してみたい。 |