プロローグ

  今や、建築やランドスケープにかかわる人なら、何度か「パブリックアート」という言葉を耳にしたことはあるだろう。建築や造園、まちづくりなどの専門誌では、パブリックアートが特集となり、最近の大規模な再開発では、まちの象徴として紹介されるケースも多い。
  とはいえ、建築やランドスケープにかかわる人がすべて、このパブリックアートに対して好意的かといえば、どうも違うようである。なかには「パブリックアートは、全体計画を壊す危険な存在」と捉え、眉をひそめる人も多い。
  その原因となっているのは、建築やランドスケープにかかわる人と、パブリックアートにたずさわる人の、アートに対する捉え方の違いであり、その違いが互いの理解を得られない原因となっている。
  このような考え方の違いはどこにあるのか? 建築やランドスケープにおいてアートは、役立つものではないのか? 役立つと考えるとアートの役割は何か?そして建築やランドスケープにかかわる人が、アートを採り込むためにはどうすればよいのか? といった疑問から、この本を整理することとした。
  本章では、少々強引ではあるが読者にとってわかりやすくするために、建築やランドスケープにかかわるアートを、「モニュメントアート」「パブリックアート」「プラスアート」の三つで捉えている。人物像や記念碑など、戦前から街なかに登場していた「モニュメントアート」。現在でも再開発事業などで多く見られる「パブリックアート」。そして建築やランドスケープにかかわる人がイニシアティブをとるべき「プラスアート」という整理である。
  「プラスアート」は世の中に出回っている言葉ではないが、ネーミングには「建築やランドスケープがめざす空間づくりをサポートする」「空間を利用する人々に豊かさを提供する」という意味を込めている。
  第1章では、建築やランドスケープにかかわるアートとして、「モニュメントアート」「パブリックアート」「プラスアート」の三つのアートを採りあげながら、役割や特徴などを比較する。そして、建築やランドスケープにおいて求められるアートとして、「プラスアート」のかたちを探っていく。
  第2章では、建築やランドスケープをサポートする「プラスアート」の機能を、具体的な事例をもって整理する。建築やランドスケープの計画過程で生じる課題や問題に対して取り組むアート事例を、関係者の取材をもとに紹介する。
  そして最終の第3章では、建築やランドスケープの計画過程で知っておくべきプラスアート導入の進め方をテーマに、導入に際してのポイントを整理し、事業者や設計者など計画する側からイニシアティブをとる知識や手法を紹介する。

 建築やランドスケープにかかわるアートは、建築と美術、造園と芸術、まちづくりとアートなど、日々異なるジャンルで活動する専門の人たちが会する場である。「パブリックアート」に象徴されるように、今までは、それぞれの領域や専門を越権することなく、予算や空間をすみ分けながら成立してきたが、もはやその調整には限界があるようだ。
  建築やランドスケープにかかわるアートに限らず、時代は様々な領域にメスを入れ、新しいかたちを模索しているなか、建築や造園、まちづくりといった領域においても、アートをどのように採り込むか、きちんと整理しておく必要がある。建築や造園、まちづくりにかかわる人、また建築やランドスケープにおいてアートにたずさわる人など、それぞれの専門家の方々に、本書を参考にしていただければ幸いである。