近年、我が国の多くの地域で歴史ある建物の活用が見られるようになってきた。
特に、この傾向は1990年代に入り顕著になってきた。しかも活用の捉え方が変わり、建築単体での活用を超えて、まちづくりという視点からも捉えられるようになってきた。つまり、規模の大小や文化財か否かにかかわらず、歴史ある建物は「地域の資源」として見直されるようになってきたのである。
さらに、1996年に発足した文化財登録制度は、活用しながら保存するという趣旨のもとに、文化財に新たな可能性を開いた。飲食店となった商家や、ギャラリーとなった蔵が登録文化財として登録されるようになってきた。活用が文化財の前面に出てきたのである。
今後、このような所有者や自治体が歴史的な価値があると考える「歴史ある建物」の活用はより一層展開されることが予想される。
本書は、このような時期に、「歴史ある建物」を活かし使い続けようとする際の参考となることを目的として企画されたものである。
構成は、事例編と論文編の2部構成で、巻末には事例のデータを収録している。
第T部の事例編では、我が国で行われている最近の活用の好例を取り上げている。事例は、継続型、転用型、復活型、イベント型の活用の型による分類を行っている。また、歴史ある建物のうち文化財とそれ以外の一般建物(本書で一般建物という時は歴史ある建物のうち文化財以外のものを指す)を全国的に網羅し、また、規模の小さな個別の建物から大規模な計画や再開発、そして地域的展開に成功しているものまで幅広く取り上げている。また、保存の種類についても解説している。
第U部の論文編では、歴史ある建物の活かし方について、一般建物と文化財についての考え方や今後の課題について述べ、最新の米国の活用の話題も掲載している。
読者は、事例のなかからは活用のあり方を探り、論文からは一般建物と文化財の活かし方の問題点や課題を汲み取ることができると幸いである。
本書が、歴史ある建物の所有者、コンサルタント、設計者、行政の関係者、そして関心のある市民の参考になり、地域の資源として歴史ある建物の活用が捉えられ、新たな活用が創造され、歴史と文化のまちづくりが推進されることを願っている。
本書は9人で執筆し4人で編集を行っているが、一般建物にあっては三船が、指定文化財にあっては清水が中心的に調整を行い、全体的な連絡や調整は三船が行った。
なお、大河直躬千葉大学名誉教授からは、適宜ご示唆をいただき、序文までいただいた。また取材に当たっては歴史ある建物の活用を実行している多くの方々にご協力いただいた。ここに改めて感謝の意を表します。
平成11年6月
編者代表 三船康道