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イラストでわかる空調設備のメンテナンス




まえがき



 近年における建築物の新設や更新はめざましいものがあり、とくにその高層化とともに、高度情報システム、ビル自動管理システムなどを導入し、情報機能が格段に向上し、またオフィスオートメーションに対応した高度な建築的環境と設備を備えたいわゆるインテリジェントビル化が顕著であります。それに伴い建築物の諸設備の占める位置の重要性も一段と増してきました。建築物と建築設備は車の車輪のようなもので、両者は不即不離の仲であり、端的にいって両者は一体のものとならなければ、いわば建築物として機能しません。そして、ここでとくに留意しなければならないのは、建築物本体は無論のこと、建築設備の保全管理、つまりメンテナンスを十分に施さなければならない点であります。
 このためビルの設備管理には多くのビル管理技術者(ビルメン)が従事されているわけですが、従来はともすればメンテナンスが軽視される傾向にありましたが、インテリジェントビルとしての機能を維持し、かつ、安全衛生上快適な空間を確保するには、つねに質の高い保全管理を必要とし、もしメンテナンスを怠ればたちまち非衛生的な環境に陥り、ビルの寿命を著しく縮めるような事態に至ることは必定です。
 とくに注目しなければならないのは、日本に限らず欧米のインテリジェントビルで、近年、ビル内の空気環境や衛生環境が悪化し、シックビル病やレジオネラ症が多発し、近代建築技術の粋を集めたインテリジェントビルが、不健康なビルの汚名であるシックビル化している点です。この原因は建築設備の設計、施工不良などもありますが、その主因はメンテナンス不良にあるといっても過言でないほどで、このことは換言すればインテリジェントビルとしての機能、環境を維持するには、つねに質の高い保全管理を実施しなければならないことを意味しているわけです。
 アメリカのビル協会の標語のひとつに「適正に設備され、適正に使用され、そして良好に維持されるべきだ」(Properly installed, properly used and well maintained)というのがあります。すなわち、installing, using, maintainingの3者のうち、ひとつでも欠落すると、快適な居住環境、建築空間が期待できなくなるわけです。usingするのは居住者や利用者で素人ですが、installingを担当するのは設計者や施工技術者、maintainingに携わるのがビル管理技術者であります。
 建築設備は、空気調和設備、給排水衛生設備、ガス設備、電気設備、防災・消防設備、昇降機設備に大別されますが、もちろん空気調和設備の運用、保全管理を正しく行うことは空気環境、衛生上きわめて重要なポイントとなるわけです。
 そこで空気調和設備に関して、その正しい運用、質の高いメンテナンスを目指していただきたいとの願いを込めて浅学非才の身をも顧みず本書を執筆した次第ですが、なにしろメンテナンスの分野は広範囲で、かつ奥の深いものであるにも係わらず、学問的に体系化されておらず、また理論的に解析つれていないといった側面があり、メンテナンスは書物(理論)で理解するものではなく「身体で覚えるもの……」といった傾向が強く、本書の説明では個々のメンテナンスに関して完全に理解しにくい側面はあると思いますが、各現場で諸先輩方のよき指導を受けていただき、保全管理の技術、ノウハウをマスターされ、ビル管理技術者としてさらに飛躍されんことを願っている次第です。
 最後になりましたが、素晴らしいイラストを描いて下さいました木村芳子先生のご尽力に対し厚く御礼申し上げます。
 1994年6月
中井多喜雄



もくじ
あとがき
著者略歴



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