近年における建築物の新設や更新はめざましいものがあり、とくにその高層化が進み、大都市では超高層建築物があいついで建設されるすうせいにあります。それに伴い建築物の諸設備の占める位置の重要性もきわめて顕著なものとなって参りました。建築設備は空気調和設備、衛生・給排水設備、消防設備、電気設備に大別されますが、科学技術の発展の著しい現在、居住性や環境衛生に重要な役割を果す空気調和設備においても、新しい機器やシステムが開発され、高度に複雑化しており、法規制の面においても斯界の情勢に対応して大幅に改正されております。
また、設備機器の面においても、厳しい法規則を受けなければならないボイラや往復圧縮式冷凍機に代わって、法規制の適用を受けなくてもすむ温熱源装置や冷熱源装置が開発され、これと併行して、自動制御の面でもコンピューター制御の普及など、めざましい技術革新の結果、現在ではボイラ技士免許や冷凍機責任者免状などの法的な資格がなくても、ビル設備の管理業務に従事することが可能となり、その職務内容も肉体労働的な要素はほとんどなく、いわゆるオペレータ的な職域となりました。
いずれにしてもこのような情勢下においては、空気調和設備の設計、施工およびこれの運転や保全管理に多くの方が従事され、また斯界での活躍を希望される方も多くおられます。ところが、とくに空気調和設備の新設や改修のための工事現場で施工を担当される方、あるいは設備の運転や保全管理を担当される方々のための、空気調和設備や空調技術に関する適当な入門書が見当らないのが現実です。もちろんこれらに関する書籍は多種発刊されておりますが、これらはいずれも斯界において設計や施工の管理、監督といった高級技術者を教育するための内容、レベルであり、学校において専門教育を受けておられない方々など、いわゆる初心者が独学で理解できるレベルの内容の書物は皆無といっても過言て゜はないほどです。
こういった現状を打破し、設備の施工現場やビル設備管理の職場へ容易に参入していただけるよう、イラストやわかりやすい図表などを用いて、空気調和に関してやさしく解説した本書を執筆致しました。この入門書で勉強され、所定年限の実務を経験された後、高級技術者としての建築設備士、空気調和・衛生工学会設備士、建築物環境衛生管理技術者、管工事施工管理技士など、法的な資格にチャレンジされる方は、市販の多種の専門書を参考にして下さい。
本書は初心者の方の斯界への誘いのため、そしてすでに斯界でご活躍の方々の知識、技能のより向上のため、また高度な法的資格をめざしていただくための、糧の一助になればとの願いを込めて、浅学非才の身をも顧みず執筆した次第ですが、繁簡当を得ぬところや誤謬があるやも知れませんので、大方のご叱正を賜わるとともに、本書が読者各位の斯界における実務そして勉強の一助として、お役に立てばこのうえもない幸甚です。 そして素晴らしいイラストを描いて下さいましたイラストレーターの木村芳子先生のご尽力に対し厚く御礼申し上げます。
1991年11月
中井 多喜雄