アルヴァ・アールトの建築
エレメント&ディテール





あとがき


 本書では、家具および照明器具を含めたアールトの諸作品を、エレメントとディテールに焦点を当てつつ紹介してきた。2013 年に上梓した『アルヴァル・アールト 光と建築』(プチグラパブリッシング)では「光と空間」を主な視点としていたが、それに加えて本書では「物と形態」という視点も重視している。
 巻頭において、アールトの言葉を紡ぎながら小さなアールト論を記すことができたのは嬉しい限りである。アールトは文章を書くことを好まなかったため、他の近代建築の巨匠らに比べると残されている文章は少ないが、詩情に富む言葉からは建築に対するアールトの考え方や姿勢などを汲みとることができた。なかでも、「大きな機能主義」という言葉で表されたアールトの思想は、「機能主義」が狭義の意味で捉えられ、単なるスタイルとして解釈されることで建築の本来あるべき役割が歪められている現状を改めて見直す契機を与えてくれる意味で、鍵となりうる重要な概念ではないだろうか。
 この「大きな機能主義」という思想はとても人間的な考え方であり、ひいてはアールト以外の北欧建築にも広く通底している考え方のようにも感じる。「私は芸術家として仕事をしている」と表明し、「芸術には人間的か、人間的でないかの二つのことしかない」と語るアールトは、自身の作品でもって常に社会に対して「人間的な建築のあり方」を示し、問いかけてきた。一見個性的な形態や特徴の向こうにある、そのようなアールトの設計に対する真摯な姿勢、人間に対する温かい眼差しが居心地のいい空間を形づくり、私たちの心を捉えているに違いない。

 本書ができあがるまでには、多くの方々にお世話になった。
 まずは現地で見学を歓迎してくれた関係者にお礼を申し上げたい。誰もがアールトの建築に関わっていることを誇らしげにしていて、その様子はアールトの存在の大きさを感じさせてくれた。
 アールト財団、アルテック、ルイスポールセン社には、資料や情報提供で協力を得た。また、現地でもお世話になり、貴重な写真を快く提供してくれた、国民年金会館本館のガイドのペトラ・レイカ(Petra Leikas)さんおよび写真家のアンニカ・ソーデルブロム(Annika Söderblom)さん、そして数多くのアールト作品を撮影し紹介してくれている写真家のヤリ・イェッツォネン(Jari Jetsonen)さんにも感謝したい。
 前著『北欧の建築 エレメント&ディテール』に引き続き、学芸出版社の宮本裕美さんと森國洋行さん、ブックデザインを手がけてくれたSatis-Oneの凌俊太郎さんには大変お世話になった。改めてお礼を申し上げたい。また、限られた時間の中で作図をしてくれた日暢子助手ならびに古賀美南さん、寳部彩さんにも感謝いたします。そして最後に、今回も刊行まで温かく見守ってくれた妻、智子に感謝の気持ちを伝えたい。
 
2018年2月
小泉隆