本書は雑誌『現代林業』((社)全国林業改良普及協会発行)に「森が変えた住まいのかたち」として、2003年4月号から2005年4月号まで、2年間にわたって連載したものをもとに、再編したものである。それは森林や木と日本の住居の関係について、わかりやすく書くことはできないかという依頼であった。かねがね私は、日本の民家における木材の使い方には、歴史的な変遷や地域的な特徴があると考えていたので、この際森林資源を下敷きにした民家論を描いてみたいという思いで引き受けることとした。そこで連載のタイトルは「森が変えた住まいのかたち」に決めて、縄文時代を支えたクリから連載が始まったのである。連載を重ねるうちに森の資源だけでは民家を語りきれず、藁や土など、民家をつくる資源全般に話は及ぶこととなった。
連載を執筆しながら、民家に関する研究書を読み直し、木材利用の歴史に関する文献を調べるなかで、民家の木材利用についての体系的な研究はなく、日本建築史においても素材から見た歴史は語られていない。地域の民家についての断片的な報告があるにすぎないことがわかってきた。結局拠り所として頼りになる資料としては、日本各地に残された民家であり、文化財に指定された民家の修理報告書であった。このように見ると、民家とはその地域のその時代の木材利用を表すものではないかという考えが徐々に深まっていった。文化財に指定された民家はその地域とその時代を代表するものと見れば、たとえ数は限られていても、たしかな手がかりにはなりうるのである。そして地域の木材利用の歴史がわからない以上、民家の木の使い方から当時の地域の木材利用を探る、あるいはその当時その地域の森林の姿を推定することができるのではないかと考えるに至った。
森林文化としての民家という連載当初の目的からはみ出しながらも、ともかく2年間毎月原稿を書き続けられたのは、『現代林業』編集担当の岩渕光則さんの励ましのおかげである。本書が林業と建築の近くて遠い間をつなぐ一端を切り開くことができたとすれば、それは岩渕さんの一貫した支持があったからである。この連載はいずれ単行本にすることが当初から予定されていたが、出版企画の段階で、より広い読者に届けたいという考えから、学芸出版社でまとめていただくこととなった。
学芸出版社の編集を担当していただいた宮本裕美さんには、この連載を読んでの感想とぜひ出版したいというお手紙をいただき、それがきっかけでこのようなかたちでまとめることができた。宮本さんには原稿に関する細かな指摘をいただき、1冊の著作として整えることができた。お話をいただいてからその作業に2年半もかかったのは、ひとえに私の怠慢であるが、その間、粘り強く催促と励ましをいただき、章立ての再編や書名についても適切な提案と助言をいただいた。学芸出版社社長の京極迪宏さんとともに感謝申し上げたい。また筑波大学の私の研究室の研究補助職員、上野弥智代さんには、原稿の校正と写真の整理についてお手伝いいただいた。これらの方々に本当にありがとうございましたとここに記して感謝申し上げます。
2009年1月 厳冬の筑波山麓にて 安藤邦廣 |