2000年の3月初旬、高橋元さんとの3年にわたる翻訳・推敲作業を経て、『健康な住まいへの道 バウビオロギーとバウエコロジー』(ホルガー・ケーニッヒ著、建築資料研究社)が出版されました。ドイツでのベストセラーと言われるその本は、セルフビルドのお国柄ドイツならではの施工実務書でありながら、バウビオロギーの思想を深く伝えようとする意欲的なものでした。高橋さんとは、翻訳作業の途上、バウビオロギーが内包する、極めて未来的な住まいづくりの考え方を今後一層深く学び、広く世に知らしめることの必要性を共に話しあい、その外的「器」のあり方を具体的に検討し、すでに2000年当時には、私たちの日本バウビオロギー研究会の骨子はできていたのです。
その後、2002年3月25日付朝日新聞朝刊に掲載されたバウビオロギーに関する記事の中で、私たちが、今日の研究会につながるバウビオロギーの運動組織を結成することが紹介され、多くの問合せをいただきました。しかしながら、互いに仕事に追われ、また高橋さんは病に倒れ、2004年1月1日、57歳の若さで帰らぬ人となったことは、痛恨の極みでありました。
そして、2005年3月5日、東京のドイツ文化センターを会場として、高橋さんの一周忌のセミナーを催し、同時に日本バウビオロギー研究会の設立をお祝いすることができました。バウビオロギー・バウエコロジーの原点を定めつつ、未来を志向するセミナーとしたかったのです。ドイツにおけるバウビオロギーのパイオニア的存在であるアントン・シュナイダー博士から温かい祝福のメッセージが届いたように、より国際的なネットワークの中で、今後運動が展開することが期待されているのだと、その責任を痛感しています。このセミナーのために、ドイツにおける環境医学のパイオニア、フォルカー・ツァーン博士が来日され、講演していただくことが叶いました。それゆえ、本書の冒頭に、環境医学の側面から住まいへの提言をいただくこととなりました。
日本バウビオロギー研究会は、目下、会員は100名に達しようとしています。研究会では3ヶ月ごとの定例セミナーを行い、会報誌を季刊で発刊しています。発足からちょうど1年、第2期目を迎え、研究会の社会への認知に尽力しているところです。その意味で、このたび、学芸出版社から当研究会の9名の発起人によって日本におけるバウビオロギーの実践の第一歩を記す本書を出版できたことは望外の喜びです。同社の編集者・宮本裕美さんへ感謝申し上げる次第です。
各章の執筆者は、それぞれの専門分野の第一線で活躍されていることは言うまでもありません。本書は医学的視点から始まり、室内環境、建築材料の諸問題を包括し、生態学的視点を踏まえた木造建築のあり方にも言及しています。さらに共同体形成のための都市的視点は、バウビオロギーの大切な一側面です。言葉使いや、例えばシックハウス関連の解釈に、微妙な相違があるとしても、執筆者の誰もが、住まいが人間の体を脅かす凶器とならないために、そして健康で人間味あふれる居住環境を実現するために、私たちが何をなすべきかという難題に真摯に向きあっています。その姿勢を感じとっていただけたら、執筆者一同幸いです。
なお、「実践する」という意味では、建築経済や電磁気環境の問題をはじめ、今後も実践を蓄積していくことが課題であり、本書の続編がいずれ生まれることを願うものです。
2006年4月
石川恒夫 |