椅子さがし建築めぐり


あとがき

 椅子は、座るという機能をもった実用的な存在である。それと同時に、生活と密接に関係した芸術作品でもある。美術的価値が評価された椅子は「応用美術」と呼ばれている。このような椅子は、たとえ高い評価を得たものであっても、公共的な空間で自由に座ってもらうために置かれていたりする。人びとに愛着をもって使われることで、椅子はくたくたになり、独特の表情を醸し出す。そんな椅子に座って空間を愉しむという行為は、私にとって、とても幸せな体験であった。
  本書では、私自身が旅をして、空間とともに体験した椅子だけを取り上げた。そのため、歴史的評価を得ながらもリストアップされなかった椅子もある。逆に、少しマイナーなものでも、実際に座って何かを感じた椅子については積極的に取り上げるようにした。ただ、私がまだ出会えていない椅子も数多く残っており、それらにめぐり会う喜びは今後の愉しみとしたい。
  本書は、2004年11月より2005年10月までホームページ上で連載した、「座れる名作 京都椅子探訪」(http://chairs.gnote.jp/)という記事がもととなっている。そこでは、京都を中心とした関西圏の12の施設を紹介した。書籍化にあたり、大幅な加筆・修正をおこなうとともに、関西圏以外のものを新たに書き下ろした。
  本書を上梓するにあたって、多くの方々のお力添えをいただいた。母校である京都工芸繊維大学の恩師ならびに諸先輩方には、今日に至るまでに多くのことをご教授いただいた。また、著者の勤務先である京都芸術デザイン専門学校のみなさんには、執筆に没頭できる環境を維持するために、いろいろな気配りをしていただいた。イラストをお願いした野村彰さんは、私の要望と真摯に向き合いながら、椅子と建築を力強い線で表現してくださった。装丁と扉のデザインは、友人である建築未来研究所の北川文太さんにお願いした。先の見えない状況のなかで、彼にはいろいろと苦労をかけた。また、本書で紹介した施設の関係者および設計を担当された建築家のみなさんには、取材や写真掲載の際にお世話になった。そして、学芸出版社編集部の知念靖広さんには、本書のきっかけとなる場を提供していただくとともに、執筆作業を粘り強く支援していただいた。この他にも、数多くの方々のご厚意に支えられてきた。なかでも、いつも温かく見守ってくれた家族の存在は大きい。最後に、すべての取材に同行し、いつも最初の読者となってくれた志保子に感謝したい。みなさん、本当にありがとうございました。

 2006年3月 京都にて
竹内 正明