日本の庭園文化

歴史と意匠をたずねて

書 評
『日本庭園学会 学会ニュース』2006.5
 本書を読み終えてまず感じたのは、庭園学の置かれている状況を冷静にとらえ、庭園学に対する世の中の要請と課題に対して取り組んでいる著者の真摯な姿勢である。
 現在、庭園学は数多くの庭園遺構の発掘などに伴い、大きな転換期を迎えている。ただし専門家以外には、庭園史のダイナミックな変動はそれほど知られていないというのが現実である。庭園史は、とかく難しいといわれることが多く、残念ながら一般の方々には敬遠されている傾向がある。ひときわ良心的に記されている本書でもそんな風潮を一蹴することは困難かもしれない。しかし、従来からの研究と最新の庭園遺構の情報が程よく反映された本書なら、少しでも現在の庭園学の活況を一般の読者に伝えられるのではないかと期待されるのである。
 それにしても、上代は例外として庭園史の書物といえば、東京や京都の庭園に偏重しがちではなかろうか。実際に、京都の庭園を取り上げた書物は極めて多い。それが本書では、山梨県の恵林寺庭園や山口県の大内氏館庭園、旧徳島城表御殿庭園、兵庫県の田淵氏庭園など、実に様々な地域の庭園が取り上げられている。またそれらの庭園の説明が時代ごとにバランスよく配置されている為、全国各地に展開する庭園文化の広がりをごく自然に学ぶことが出来る。そして庭園がこうした裾野の広さを礎として、わが国を代表する文化にまで昇華したことに改めて気付かされた。
 最後に、本書の冒頭に記されている問題提起について紹介しておきたい。少々長文になるが、そのまま引用する。「今日、世界遺産というように、国際的な観点から庭園を評価し観賞される時代になってきた。それだけに日本の庭園文化は、日本独自の様式と意匠をもった日本庭園というかたちで発展してきたが、文化の独自性が問われる時代になり、中国庭園やイギリス庭園との相違を、原理的にも意匠的にもはっきりさせておく必要がでてきた。」すなわち、著者いわく、日本庭園とはそもそも如何なるものであるかということが今日改めて問い直されているということである。そして、現在、庭園学は一般の人々から脚光を浴びつつあることを告げている。前述の文章を目にして、この庭園学の一大転機に対応していくには、新鮮な感性をもつ若き学生らとも力を合わせていく必要があると改めて思った次第である。庭園史を改めて学びなおそうとする人はもちろん、庭園史に興味があるが取っ付きにくいと思っている若者にご購読いただきたい一冊である。
(今江秀史)

『ランドスケープデザイン』(マルモ出版)No.47
  日本庭園は長い歴史の中で、社会・文化・宗教などとのかかわりの中から生まれ、洗練されてきた日本独自の美の結晶である。本書では、文献資料のみならず、近年の発掘成果をも踏まえ、各時代の庭園の特徴を解説し、時代を代表する各地の庭園をたずねる。日本庭園をどのように鑑賞すべきか。それは音楽を鑑賞するのと同じように、人それぞれであり、どのように鑑賞しなければならないかという決まりもない。本書ではひとことでは言い表せない複雑な日本庭園の様式と意匠を分類し、観賞の手引きとした。名勝一覧・略年表付。

『庭』(龍居庭園研究所)2006.1
  ─日本の庭園文化は、ある時代に創造されたひとつの意匠でなく、時代の文化・思想・宗教を背景に、その時代の諸文化との関係や生活と深くかかわりながら、さまざまな様式意匠を創造してきた─
  日本庭園は、草創期より、中国や朝鮮半島の文化や思想によって強く影響されながらも、世界的にも類のない日本独自の様式と意匠を発展させてきた。同じく自然風の庭園様式でありながら、中国やイギリスのそれと異なるのは、自然をそのまま具現化するのではなく、象徴的に抽象化している点だという。それがここで日本庭園を「象徴的縮景式庭園」と名付ける所以である。
  本書は、今日貴重な文化遺産として、世界的にも認知されている日本庭園の、観賞の一助として編まれたもので、主に庭園様式と背景にある思想や文化の、時代的変遷を辿っている。特色の一つは、近年の発掘調査の成果を積極的に紹介していることだ。
  ─日本庭園の発祥を考える時、そこに日本独自の原始信仰の形である常世(とこよ)思想等に基づくものと、大陸からもたらされた文化による二つの影響が考えられる─。
  前者の例としては、環状列石や磐座(いわくら)遺構あるいは古墳の周濠などの景観要素が挙げられる。中でも三重県伊賀市で、平成3年に発見された城之越遺跡は、古墳時代前期の祭祀遺跡であると言われているが、流れや泉、石組などの手法に、奈良時代以降の庭園の要素に共通するものが見られるということで、「日本最古の庭園」との見方もある。
  後者の例では、よく知られる推古天皇の時代、百済から渡来した路子工が須弥山の形と呉橋をつくった逸話から、それ以降の飛鳥、奈良時代の庭園意匠が詳しい。上之宮遺跡、古宮遺跡、そして話題になった島庄遺跡、飛鳥京跡苑池遺構、さらには平城京におけるいくつかの遺構など一連の庭園遺構を、韓国や中国の庭園意匠と比較検証した解説により、平安期以前の庭園の空白部分が埋めれつつある。
  もう一つの特色は、地方の庭園にも多く目が向けられていることだ。奥州平泉の毛越寺庭園は、比較的早い時期に発掘調査と整備が行われ、屈指の浄土庭園としての評価はよく知られるところとなったが、室町中期の代表的庭園として、鹿苑寺、慈照寺、常栄寺の各庭園とともに解説されている保国寺庭園の所在地は愛媛県。多数の伊予青石を使用し、中国の山水風景を思わせる景観が構成されているとある。また、室町末期には旧秀隣寺庭園(滋賀県朽木)や北畠氏館跡庭園(三重県美杉村)、一乗谷朝倉氏庭園(福井市)の例がある。
─(北畠氏館跡)庭園は、池泉観賞式庭園である。池泉の地割は変化のある形で(中略)、池泉の護岸石組は力強く優美である。池中に中島を一島配する。東部に特色ある石組がある。渦巻式(須弥山)石組と呼ばれている古式枯山水庭園である。十数個の立石や伏石で組まれている配石は力強く優美である─

 これらの庭園は現在かなり交通の不便な土地にあるものだが、当時はその地方の文化の中心地でもあった。このような事例は、庭園文化の地方への伝播が、どのような時代背景のもとに行われたかを窺わせ興味深い。
  時代下って江戸時代中期。この時代は作庭秘伝書の刊行によって、庭園が定型化された反面、「庭園文化は江戸や京都から地方へと全国的な普及」を見て、「その地方に素材を求めた独特の作庭が生まれてきた」という。例としては尾崎氏庭園(鳥取県)、森氏庭園(鹿児島県)、妙経寺庭園(大分県)、窪田氏庭園(山梨県)。田淵氏庭園(兵庫県)等々、枚挙にいとまがない。その傾向は次の時代にも受け継がれ、「華やぐ各地の庭園」として、地方における特徴的かつ優れた意匠の庭園が、数多く紹介されている。大名や社寺の庭園だけでなく、庶民レベルでの作庭が多くなってくるのもこの時代である。
  初心者用であるにもかかわらず、これまでの有名庭園の解説とはひと味異なり、知名度の低い、地方の庭園に光を当てているところが注目であり、これまでにも地元兵庫の庭を中心に、地方の庭園を精力的に紹介してきた著者ならではの日本庭園案内書になっている。巻末の「日本庭園文化史略年表」も充実。

『住宅建築』(建築思潮研究所)2006.1
いまなお新鮮な文化と思想
  本書で、著者西氏は、それぞれの時代を追いながら庭園の様式をその時代の建築様式・時代背景とともに各地の庭園を例に挙げながら解説を加えて行く。庭園の知識ばかりでなく、庭園と深い関連を持つ建築様式をはじめ仏教思想・茶の湯など日本文化に深い造詣を持つ、著者ならではの多角的視点が、どの庭園の解説にも活きていて、より深い理解のための手助けとなる。庭園文化に疎い筆者にとっては、建築学科の学生だった頃ただ新鮮な驚きとともに見学した、数寄屋造りの建築で知られる桂離宮の庭園、枯山水庭園の代表龍安寺方丈庭園など京都の名庭や、軽い散歩気分で出かけた東京の後楽園、六義園なども、その解説に触れると、改めてそれらの庭園を見直してみたい気持ちにさせられる。
  とりわけ筆者にとって新鮮だったのは、飛鳥時代に本格的に発展する日本の庭園について、ここ十年の間の発掘調査により新たな発見があり、日本の庭園文化の起源についての研究が現在も進められており、これまでの学説が見直されつつあると言う事実である。他の文化同様、日本の庭園文化も中国・朝鮮を伝わってきたが、その内実については最近の発見により、学問的にもあらたな展開が期待できる状況にあると言う。著者は日本の庭園文化の特徴を、中国の「神秘的風景式庭園」イギリスの「写実的風景式庭園」に対して、「象徴的縮景的庭園」と捉えている。筆者は、外国の庭園に詳しいわけではないが、確かに龍安寺方丈庭園の石庭の様に、白砂と石の絶妙な配置のみで、様々な情景を喚起させる庭園はヨーロッパのどこにもないであろう。また、数年前に沖縄の識名園を訪ねたことがあるが、構成は池泉回遊式庭園といわれる日本の庭園様式のひとつであるが、中島の中国風四阿・アーチ式石橋などが配され、全体として中国風庭園の雰囲気を感じさせる。日本庭園の持っている独特の雰囲気を表現する言葉として「象徴的縮景的庭園」は、まことに的確と言えよう。
  日本建築の特徴として、うちそとの連続性を作り出す空間の構造・仕掛けに独特のものがある点が先ず挙げられよう。それだけに、最も身近な外部空間である庭園との関係が、建築のあり方を語る上でも欠かせない要素として挙げられる。日本の庭園が、建築様式と不可分の関係にあって、その様式を発展させてきた経緯もまた、本書で丁寧にたどられており建築を専門とする我々にとっても大変興味深い。関西を中心に設計活動をしていた建築家、故西沢文隆氏は庭園を含めた古建築の実測図を作り続けていた。西沢氏は、単に実測するだけでなく、空間のうちそとの繋ぎ方・区切り方などを、古い日本の建築に学び自らの設計に取り入れていた。本書に見られる先人の庭園文化の思想が、建築ばかりでなく街並み・都市へと広がる環境に活かされる必要を感じるのは、筆者ばかりではないであろう。単なる庭園の解説書としてだけでなく、そのための基本的な素養としても、教えられるところの多い一書である。

(松平弘久)

『室内』((株)工作社)2006.1
  日本庭園は中国や朝鮮など、海外のさまざまな文化を取入れながら発展してきた。そのため、どう変遷してきたのか分かりにくい。そこで、飛鳥以前から昭和までを細かく15に区切り、その時代を代表する63の庭を中心に、文献や資料、現存する庭から歴史をたどっていく。
  仏教思想に始まって、平安時代には浄土思想が、鎌倉・室町時代には禅が、新しい庭園の形を生み出した。ひとつひとつに写真や平面図などが入っているので、わかりやすい。
  複雑で入組んだ様式については大きく三つに分けて解読している。池や石灯籠などの歴史について触れることも忘れない。
  本書は、日本の庭園を知るための格好の手引書である。著者である西さんは、なによりもまず、多くの名園を見ることが大事という。津々浦々の庭園を網羅しているので、この本を片手に見学すれば、より知識が深まるだろう。

(砂)

『環境緑化新聞』 2005.11.15
庭園文化を知ることで日本文化を再認識
  日本の庭園文化は、ある特定の時代に創造されたひとつの意匠ではない。その時代の諸文化と深く関わりながらさまざまに変化してきたものを全て含めている。そのため、建築や茶道、華道、仏教、道教思想などとともに庭園文化を考える必要がある。副題は「歴史と意匠をたずねて」。
  日本庭園を紹介する書は、多くが歴史を追って庭園の形態を解説していく。本書もその形式をとっているが、庭園文化の変遷に重きを置き、一般的なものよりも時代区分が細分化されている。平安、室町、江戸は初期・中期・末期に分けられている。そのため初心者には聞き慣れない庭園の名前も出てきている。庭園を見学する際の初心者向けの手引きとなると、庭の要素を図や写真で解説する方がその場ではわかりやすい。しかし本書は歴史背景をより詳しく記し、日本庭園の心を理解することで日本文化を再認識することに繋がっている。庭園ガイドブックというよりはもっと深い読みものである。巻末には50音索引、国指定文化財名勝庭園一覧、日本庭園文化史年表付。