本書のまとめに入った頃から、テレビや新聞は連日、イラク戦争の情況を伝えていた。建物が破壊され、尊い人命が奪われ、悲惨な情景がメディアを通して容赦なく流された。憎しみの応酬は、エスカレートするばかりで限りがない。
私は戦争ほどunsustainable(反持続的)なことはないと考えている。戦争とは「環境への倫理観が全くなく、環境に多大の負荷を与え、生命あるすべてを破壊する」ものだからである。
本書のタイトルは“サステイナブル建築”である。“サステイナブル建築”の目指すところは、究極において戦争のない社会をつくることでもあるのだとの想いが強い。
この10年を振り返って私は、“サステイナブル建築”への関心が確実に高まっていると感じている。それはJIA環境建築賞の応募作品にみられる多様な傾向のなかに、またサステイナビリティをテーマとしたコミュニティ、地域、都市づくりに関する内外の情報が目立って増えていることにも表われている。だからといって、世の中がその方向に順調に進んでいると断言することは早計であるが、少なくとも関心の高まりを肌で感じとることができる。
“サステイナブル建築”を論じるにあたって未知の課題が多い。もっとも重要なことの一つは、サステイナビリティの評価に関することである。すでに英国、カナダ、米国などで建築のサステイナビリティに関する性能評価の方法が試みられ、日本でも建築家や研究者の間で関心が高まっている。いま、日本版の試行が強く望まれているところである。2005年9月には「2005サステナブル建築世界会議東京大会」(The 2005 World Sustainable Building Conference in Tokyo)という政府間レベルの会議が東京で開かれることになっている。この会議のスローガンは Action for Sustainability(持続可能な世界に向かって行動しよう)となっており、いま何よりも幅広い行動を起こすことの大切さを呼びかけている。こうした動きを背景に、“サステイナブル建築”に関する議論が国内でも一段と深まっていくと思われる。
長い時間がかかって、ようやく本書の全体を読み通した時、“サステイナブル建築”というタイトルで世に問うには、あまりにも内容が整理されていないことに気がついた。T部の小論文についていえば説明の重複が気になるが、それは、時と読者を異にすることによる止むを得ぬ事情と受け止めていただきたい。論旨の中身にみられる時間的なギャップは、“2004年のノート”のなかで補っている。また、U部からの具体的な事例については、JIA環境建築賞の第1回と第2回に限定されており、その後の受賞作や地域に根ざした地道な活動などを採り上げることができなかった。この2、3年の建築活動のなかには、注目すべき事例が増えている。V部の私の住まいの考察に関しては、一つのケーススタディで終わっている。しかし、このプロセスが内包する問題は、多岐にわたっており、興味深いものがある。ライフステージと住まいの関連は、その重要さの割に等閑視されていたように思われる。住宅のサステイナビリティを考えるとき、時間軸でみることが欠かせぬ視点である。
本書の目的とするところは、これから“サステイナブル建築”に関心を寄せる人たちのガイドとなることである。また、より専門的な知識と経験を持つ人には、足りない部分を補い“サステイナブル建築”の全体像を明確なものにして欲しいと願っている。
本書を出版するきっかけとなったのは、1997年12月の地球温暖化防止京都会議(COP3)の時である。日本建築学会主催のシンポジウムが開かれ、その会場でお目にかかったのが本書の編集者、学芸出版社の村田譲さんである。その時からすでに6年半が過ぎてしまった。この間、忍耐強くお付き合いいただいた村田さんに深く感謝するとともに、日本建築学会・地球環境委員会、日本建築家協会・環境行動委員会などを通じて、日頃から交流を重ねている諸賢と貴重な資料を快く提供してくださった多くの方々に、お礼を申し上げます。
72歳の誕生日を控えて
林 昭男
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