これからの展望

西村幸夫



都市計画制度について

 都市計画の人間ですので、少し都市計画に偏った話になるかもしれませんが、私は幾つかこういうふうにしなければいけないのではないか、と思うところがあります。
 一つは今の容積の制度です。容積を決める制度は、やはりうまくいっていないんじゃないかということです。もう少し具体的に形、たとえば高さを決めたり、壁の線を決めたりといったルールであるべきではないかと思います。
 昔はそうだったのですが、密度規制になって、分かりにくくなってしまったのではないでしょうか。もう一回どこかの時点で、具体的な形がイメージできるような、そしてそれが良いかどうかが市民にわかるようなルールをつくっていかなくてはいけないと思います。
 もうひとつは今の用途地域です。例えば「戸建てしかダメ」といった具体的に建つもののイメージを決めていないので、例えば集合住宅が戸建ての所に建つ、ということが起きるわけです。これはやはり本来的には戸建て住宅だったら戸建て住宅地区とか、建物のスタイルを決められるような、そういうルールを作るべきじゃないかと思います。
 殆どの先進国はそうなっています。ゾーニングを決めているところでは、そこにどういう建物が建って良いのかを決めています。階数等が決まっているわけです。日本はそこが出来なかったのですが、やはりきちんと決めないといけない。例えば具体的に現代版の町家のような建物を建てるのか、それとも門構えをもった武家屋敷的な建物を建てるのか決めていく必要があるだろうと思っています。
 それから、もうひとつは今の地区の中に美観地区とか風致地区といった制度があるのですが、あまりうまく機能していません。特に美観地区は実際の都市の中で殆ど機能していません。せっかく法定の地区があるのですから、きちんと活かすべきだと思います。千代田区では美観地区をもう一回活性化しようと工夫を始めています。いろいろな条例で決める独自の地区も良いのですが、せっかく都市計画の中に美観地区があるのですから、もう少しきちんと活かしていくことを考えなくてはいけないと思います。


農村景観

 また、先ほど言ったようにやはり農村です。田園の風景とか山林の風景をきちんと守る仕組みを作らなくてはいけないと思います。先程アジアの話がでましたが、アジアの農村には日本のようにわりときちんと残っている所は結構少ない。意外です。もちろん中国ななどでは残っておりますが、ただその残っているところは、電気もガスもない、生活としては厳しいところです。それをそのまま残すのは非常に難しい。が、日本の農村はちゃんとしたアメニティが揃っていて、なおかつ伝統的な様式が残っているのです。
 こういったことは割合少なく、東南アジアでは殆ど新建材に変わってしまっています。極端に貧しいか、でなければ大きく変わってしまっています。また韓国もそうです。韓国はセマウル運動で殆どの農家が変わりました。日本はそういう意味で言うと、たんぼの風景とか山林の緑は他の国と比べ圧倒的です。ものすごく豊かな山の緑を持っています。我々にとっては当たり前すぎて、大したことは無いと思っているでしょうが、アジアの目で見ると大変な財産だと思います。
 ですから、もう少しそれをきちんと守っていかなければいけない。それは、山林を守ることに繋がるし、木材をきちんと流通させたりする事に繋がると思います。


アジアの中での連携

 私は日本は先進国から見ると劣等生だとしても、アジアの中ではかなり頑張っているほうだと思います。アジアには経済が大きく変化したり、住様式が急に変わるような国が多いわけです。この何十年間の間にものすごく生活様式が変わってきています。日本だってそうです。100年前はみんな着物を着ていたわけですから。その中で何とかしていこうと、まがりなりにもやってきました。難しい合意形成も何とかやろうとしてきました。これはアジアの国に大きな示唆を与えていると思います。
 だからそういうかたちで、うまくアジアの中で連携していけるんじゃないかと思います。また、彼らも日本を注目しています。例えばかつて奈良の規制緩和でいろいろな建物が60(sixty)mで計画されていると言ったら、それは16(sixteen)mの間違いじゃないかと何度も聞かれました。アジア諸国は日本がどうなるか注目しているわけです。また韓国の文化財保護法は、日本の文化財保護法の殆どコピーです。だからある意味で、我々はアジアのフロントランナーとして頑張らなくてはいけない。それくらいの価値は十分あります。
 また日本だけではなく、アジアには守るべきものがたくさんあるから、そういうものまで目を広げて、その一翼を担うんだと思えば、可能性が広がると思います。そういう目が大事だと思います。
 三船 どうもありがとうございました。最後に、丸の内についてどう思うかという質問です。
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