はじめに

 「自治体まちづくり」と言っても、はじめて聞く方のほうが多いかも知れません。「まちづくり」という言葉が、それまでの「都市計画」や「都市開発」といった言葉に代わって、1970年代ぐらいから使われ始め、いまようやく、私たちの身の周りの環境を保全・革新・創出していくことを考え、実践していく言葉として、ひんぱんに使われるようになってきました。
 ただ、この「まちづくり」という言葉をいま一度考えてみるために、中学校で習った英文法に立ち戻ってみると、「まち」という目的語(O)と、「つくる」という動詞(V)はあるものの、だれが「つくる」という行動や実践をしていくのか、その主語(S)が示されていません。
 一体だれが「まち」を「つくる」のでしょうか? 一体だれが「まちづくり」の主語になるのでしょうか? それは「あなた」です。あなた、そして私たちです。いまこの地表の一画にある都市や集落に住み、毎日そこを拠点として暮らしを立て、日々の生活を少しでも潤いのあるものとしていきたい、共に住んでいる人々と仲良くしていきたいと考えている住み手の方々、私たちこそが「まちづくり」の主語になっていくことが大切なのです。
 都市に住む私たちが、身の周りの環境や都市に、もっと主体的にそして積極的に働きかけて、それをより住み良いものに変えていく、あるいはそれを新たに創り出していくことが、人間と都市の関係をより豊かなものにしていくのでしょう。

 私たちも、この「まちづくり」という大変手間と時間のかかる作業の主体・主語と成るために、今までのようにただ反対したり、要求したりという段階を越えて、共に力を合わせていく、汗を流していく、提案・実践をしていくという役割と責任を果たしていくことが求められています。
 さらに自らの住む地区や周辺の地域のことだけではなく、また国内の問題だけではなく、時には広く地球環境や宇宙にも目や心を向けて、そのありようを考え、そこから今の私たちの都市のことを考え直してみるということも大切です。この地球には人間以外にも他の多くの動植物が住んでいるのですから、そうした地球の生命体とどう住み合うかということも、もっと真剣に考えないといけない時期がやってきています。

 このように、今までよりはるかに大きな、そして多様なテーマも考えながら、都市の課題に取り組んでいかねばならない時代に私たちは立っています。そうした時代の「まちづくり」に向けて、私たち住み手・市民はもとより、地域に関わる多くの事業者や行政(国・都道府県・市区町村)が、共に役割と責任を認識しながら、力を合わせていくことが強く求められています。

 ここでは、そうした「まちづくり」を進めていく各主体を、市区町村という基礎自治体・地域自治体(=以下「自治体」と言う)が束ねたり協働しながら、そこを生活単位・拠点とする私たちがどのようなことができるのか、何をしていったら良いのかなどを、私がこれまで働いてきた自治体の事例や経験、そして苦悩や喜びも踏まえて、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
 この本は、まちづくりについての技術解説書やマニュアルなどではなく、ましてや学術的な本ではありません。自治体に住み、あるいは働き、さらには自治体においてまちづくりを実践したり、それに関心を持っている方々に読んでいただきたいと願って書きました。皆さんの地域でのまちづくりに、何か一つでも役立ちそうなことを引き出して、そこでのまちづくりにつなげていただければ幸いです。
2003年1月  原 昭夫