直感で理解する!構造力学の基本


まえがき

 みなさんは自分の直感を信じているでしょうか。人間の直感は正しい ― 私はそう思っています。日常生活では、ものごとを即座に判断し、答えを出す必要に迫られることが多く、そのたびにみなさんは直感力で対処しているように思います。たとえば、洋服を店で選ぶ時とか、あるいは進学先や就職先、人生の伴侶など一生を左右するような重大な選択をする場面でも、まず何かひらめくものがあるはずで、後付けで理屈を並べて自分自身を納得させているだけのような気がします。
 構造力学の世界においても、自分の直感が正しいということがあり、それが構造力学を理解する助けになります。長年の生活体験で無意識のうちに培われたものを利用しない手はありません。もちろん、その精度は経験によるところが大きいと思いますが、これから経験値を増やしていけば良いだけの話です。本書でも、みなさんに容易に理解してもらえるよう、例えを交えながら直感に訴える表現を心がけました。力学的に表現が正確さを欠くこともありますが、いきなり難しいことを正確に覚えようとするより、まず感覚として理解することのほうが大切だと考えるからです。
 拙著『直感で理解する! 構造設計の基本』では、難しい数式を使わず、文章とイラストだけで構造力学と構造設計の橋渡しになるような本が一冊ぐらいあってもよいのではないか、という想いから執筆しました。今回もそのコンセプトを踏襲し、構造力学を解説しています。本書では、構造力学の入門書として部材の弾性範囲を取り上げ、微小変形範囲に限定しました。したがって、塑性域の挙動や座屈現象、振動現象などは本書の範囲外としています。また、数式や公式、解き方の手順を丸暗記するだけでは、構造力学を理解したことになりません。「知っている」ことと「使える」ことは違うからです。そのため、重要な式の展開を目で追えるように工夫し、イラストや写真、図表を用いながら平易な文章で解説しました。さらに、付録として一級建築士受験にも役に立つ構造力学問題を厳選し、解くポイントをおさえられるように配慮しています。
 これから建築構造を学ぼうとする学生や若手の建築技術者(設計者・施工監理者)など建築構造を学ぶ必要のある実務者を読者の対象にしていますが、この本を手にとって読んでくださった方が、構造力学っておもしろそうだ、実際に建物の構造設計をやってみたい、と感じてもらえたなら、とてもうれしく思います。何しろ、構造力学を使って「0」から「9」までの10個の数字だけで建物を建てることができるのです。あの超高層ビルも、このスタジアムも。そして、建物のフォルムも性能もすべて10個の数字が支配するのです。その数字に命を吹き込む、それが構造設計という世界です。どうです、おもしろい世界だと思いませんか。

2018年2月吉日
山浦晋弘