図解 雨漏り事件簿 原因調査と対策のポイント


はじめに

 2006年6月、『現場で学ぶ 住まいの雨仕舞い』(学芸出版社)という本を出版しました。10年以上経過しましたが、この種の本としては比較的好評で、少しずつですが売れ続けています。本書はそのパート2の意味で、雨漏り事例を中心に、雨漏りの原因究明が難しい雨水浸入口別に分類しました。
 雨漏りを修理する場合に、雨漏りの浸出口は雨漏り現象としてあきらかですが、雨漏りの浸入口全部を確実に見つけなければなりません。見つけきれない場合には当然、雨漏りが再発します。住宅建物における雨水の浸入口の候補は、大体推定できるものですから、仮説を立て、散水試験を確実に実施して、その部位が雨水の浸入口であることを証明していくことになります。
 2000年4月施行の「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)により、「構造」と「雨漏り」については保証期間が10年となり、建物の長寿命化が社会的に要求されています。本書のテーマである雨漏りに関しては10年保証ということになります。
 さらに、2011年の最高裁判決では、「雨漏りなどの瑕疵には、民法の不法行為責任が問われる」との判断が示されました。不法行為責任の時効は20年。つまり雨漏り瑕疵は20年にわたって責任を追及される可能性がでてきたことになります。
 建築主で雨漏りに悩む人は多いです。建築施工者で雨漏りする建物を建設してしまい、解決できずに悩む場合があります。リフォーム業者で雨漏りを解決できずに悩む場合もあります。
 建築の雨漏り撲滅は、建築主の満足度向上、施工者側の経営上のリスク回避など、大きな意味を持ちますから、充分に配慮されてしかるべきものです。しかし現実には、現場で配慮されずに、施工の速さのみが追求されがちです。建築では、施工を急ぐとリスクが高まることが通常です。若い職人が親方から急がされて施工して、丁寧さは見えにくいです。
 新築住宅の場合なら、屋根・外壁の下葺き材の施工に充分な配慮がなされれば、雨漏りは発生しないと言い切ることができます。現場で、そのような配慮が実施されるシステムつくりが必要です。
 雨漏り現場の修理工事の場合なら、散水試験を充分な時間をかけて実施して、雨水浸入の全個所を確認してから、修理工事にかかることになります。散水試験を手抜きしてはなりません。修理工事自体は通常の施工者なら可能でしょうが、全ての浸入口を確実に見つけることが生命線になります。
 本書に記載した雨漏り事例は、「雨漏り診断士協会」所属のメンバー、「雨漏り110番」グループのメンバーから提供してもらいました。ここに感謝申し上げます。
 メンバーは、それぞれが雨漏り原因の究明・補修工事を生業にしている雨漏り関係の専門家です。専門ではありますが、それでも解決には苦労しています。100%解決できてはいないのが現実です。一言で言えば雨漏りは難しいということです。残念ながら、多くの雨漏り再発という失敗経験もあります。ただ、失敗経験を重ねるごとに、より早く解決につながっていくことも事実です。
 本書には、「雨漏り110番」のメンバーが試行錯誤を重ねて得てきたノウハウがぎっしり詰まっています。自身が一から現実に経験していくなら、数十年かかることを学ぶことができます。住宅建築に携わる方のご参考にしていただければ幸いです。