設計・監理・施工者のための
建築品質トラブル予防のツボ

はじめに

 建築に携わる者にとって重要なことは、社会ストックとして長く使い続けることができて、使う人にとって快適で安心できる、確かな品質の建築をつくることである。確かな品質の建築は、設計者、工事監理者、施工者の建築工事に関わる関係者が過去の品質トラブル事例から事象に対する予知能力を高め、クリエイティブな協業による「ものづくり」をすることによって可能となる。
 建築をつくる過程において、あらかじめ品質トラブルが発生することを予知できれば予防措置を打つことができる。しかし、予知能力をもつことは、そう簡単ではない。予知能力を高めるには失敗を経験することが一番であるが、建築生産の現場では許されない。先人の失敗に学び、常に品質に対する高い意識を持ち続けることである。技術の伝承も大事なことであるが、建築主の想いに応える関係者のクリエイティブな協業による「ものづくりの心」の伝承が大切である。「ものづくりの心」があれば、技術はついてくるし、進化することもできる。
 本書は、品質トラブル予防のための手引書として、第1部で建築工事の生産プロセスの中で、押さえておかなければならない基礎知識を建築の作法としてわかりやすく解説し、第2部で品質トラブル予防のツボ100を整理した。どこから開いても気軽に読めるように配慮した。
 建築で大切なことは設計者、工事監理者、施工者がそれぞれの役割を「作法」として体質化して自然体で「ものづくり」を行い、建築主の想いを実現することである。
 建築に関わる若手技術者が「品質トラブルに対する予知と予防」という新たな発想で、「ものづくり」の原点に立ち返り、「ものづくりの心」を今一度、確かなものにするきっかけになることを期待している。

 2013年12月

仲本尚志・馬渡勝昭