住宅エクステリアの100ポイント


おわりに

 エクステリア・ガーデン工事関連の仕事を目指したり、スキル習得のための若手技術者や社員研修の折に「表札」の話をすることがよくあります。表札はほとんどのお宅にあるものですが、この数年の間に大きく様変わりしてきています。たまたまかどうかわかりませんが、筆者が大学卒業後、電鉄系造園会社に入った頃がエクステリア業界の草創期といえ、それから約35年が経過し、その間に多くの建築主に対してエクステリア・ガーデンの仕事をさせていただきました。当時の表札は90×180mmのいわゆる3×6寸の大理石、御影石か木製の表札ぐらいしかなく、今日ほどさまざまなサイズ、素材、デザインのものは当然ない時代でした。新築の家の門柱に「自筆の文字をそのまま彫れますよ」とお話したら、今でいうCS(顧客満足)からCD(顧客感動)といえるくらい喜んでいただいたことも多くありました。
  ところが最近は、表札(サイン)の種類が非常に多く、ややもすれば表札一つ決めるのがなかなかスムーズにいかず、時間だけがかかり、建築主も迷ってしまいます。場合によっては、表札を設置した後でバランスが悪かったり、イメージが違ったりするなどの不具合につながることもあります。言い換えれば、エクステリア工事に用いる植物を含めた商品、材料の多様化に伴い、「ただ何となく」ではなく、デザイン面から商材の選択に至るまで、建築主に理解して納得してもらうだけの論理的な説明が大事になってきています。イメージを構成する要素(フォルム、テクスチュア、カラースキーム)から造形物のバランス感など、生物である植物の特性から生育環境条件などに至るまでを含め、さまざまな専門知識を持つエクステリア技術者が必要といえる所以です。
  また、エクステリア工事を取り巻く周辺環境もここ数年の間に大きく変化してきています。顧客サイドから見ると、外部住空間に対しての意識の変化が顕著となり、個々のライフスタイル、ライフステージに対応した、住む人にとって価値のある外部住空間を求め始めているといえます。エクステリア関連の商材も多様化していき、雑誌やインターネット等にてさまざまな情報が身近なものになる中「セミプロ化」している建築主も増えています。一方、建築サイドから見ると、新築着工件数の減少に伴う「顧客囲い込み」「生涯顧客化」という面からも、建物だけでなくエクステリアを含めたトータルな提案により顧客満足度を高めていく必要性が強くなってきています。言い換えれば、住宅設計において、建築だけではなくエクステリア関連の知識、情報に裏付けされた敷地全体の提案スキルが必要になってきているといえます。
  エス・バイ・エル(株)の玉水新吾氏には、以前から仕事上などでお世話になっており、氏より「エクステリア関連のノウハウをまとめて、若手技術者に役立つ情報提供をすべきである」と勧められ、筆の運びとなりました。大学卒業後、住宅のエクステリア・ガーデン等を中心の仕事をしてきましたが、集大成としての出版ができ、こういう機会を作っていただいた玉水氏に深く感謝しております。
  また、日本建築協会の出版委員会のメンバー各位には、毎月の会議において、貴重なご意見と助言を頂戴すると共に励ましていただきました。(株)学芸出版社の編集長:吉田隆氏、編集:越智和子氏には、毎月の出版委員会での原稿の方向性や出版に向けての見本組、校正などいろいろ援助していただき感謝申しあげます。
  本書の中で掲載した現場写真など各種資料の使用に際しお願いしたところ、資料提供各位には快諾していただきありがとうございました。思い起こせば、昨年の9月くらいから永い時間がかかりましたが、このように多くの方々の励まし、助言、協力をいただきまして本書が出版されることになりました。皆様にはこの場を借りまして、心より厚くお礼申しあげます。

2007年8月  藤 山 宏