建築構法


まえがき

 〈建築構法〉の学習は,建築物のしくみを知り,部位の名称を知ることが大きな目的となる.このような目的は,とくに建築学の初学者にとって重要なものである.そのため,建築学の学習においては「一般構造」と呼ばれ,カリキュラムの最初に位置づけられることが多い.
  また,先人の工夫のかたまりのような建築物は,それが建つ場所の性格とは無縁でいられない.大量の人工材料の入手や多くのエネルギー消費が困難な時代にあっては,身近で手に入る材料を用いて建築物を造り,日照や風向などの土地が持つ特性を熟知することが必要であった.
  しかし,現代の先進国では人工的な建築材料を大量に手に入れることができ,エネルギーの消費も楽に行えるようになった.それだけでなく,技術の進歩もさまざまな〈建築構法〉を産み出している.このような状況にあって現代に生きる我々は,もう一度〈建築構法〉を見直さなければならないと思う.
  そこで,本書では初めに「構法を産み出すもの」として,各種の建築構法が誕生した背景について考えた.さらに,まとめとして「構法が産み出すもの」として,〈建築構法〉の違いが自然や社会に与える影響についても考えた.これらの考察は「環境にやさしい建築」や「サステイナブルな建築」が求められている現在において,読者の皆様の参考になると信じている.
  現代において主となる〈建築構法〉については,「躯体の構法」と「仕上げの構法」に分けて捉えた.また,木質構造・鋼構造・鉄筋コンクリート造といった,構造別にそれらを捉えて読者の理解を容易にした.
  ただ,現代はさまざまな構造があり,〈建築構法〉についても,本書で取り上げていないものが多数ある.しかし,これらの工夫も人が考え出したものであり,本書に触れた方々にも,適切な〈建築構法〉を選ぶだけでなく,新しい〈建築構法〉を考え出していただきたい.そのために本書が少しでも役立つことが,筆者の喜びである.
  本書を執筆するにあたり,さまざまな書籍を参考にさせていただいた.書籍を通じてご教示いただいた筆者には,ここであらためて御礼を申し上げたい.それらの書籍は参考文献として章末に示した.学習を深めたい読者は,ぜひそれらの書籍にも目を通していただきたい.
  また,本書は株式会社学芸出版社の吉田隆氏,村田譲氏,中木保代氏のご助力の下に完成したことを,ここに記して感謝の意を表したい.

執筆者を代表して  武田 雄二