聴く!技術士総合技術監理部門のツボ


おわりに


 “アベノミクス”が流行語になりつつある。
 政権交代に機を合わせたかのような円安に株高が続き、景況感は大きく改善されようとしている。特に建設業者は、震災特需も相まって、東北を中心に活気が戻りつつあるという。製造業も輸出企業を中心に円安歓迎ムードが広がり、業績浮上の期待感が高まっている。
 工学に携わる技術者として、建設業、製造業が活況を呈するのは、本来、望ましいことであるはずだ。
 しかし、「何かが違う……」と感じてしまう。
 終戦から高度成長を経て、バブルで贅を尽くした果てにその崩壊を経験し、失われた10年まで味わってきた今、“景気回復至上主義”が多くの人々から当然のごとく希求されていることに、強い違和感を覚えるのだ。
 翻って、「高い倫理観」を持つべき総監技術士の立場からこの模様を改めて眺めてみても、かつてのような「建てよ、造れよ」という手垢にまみれたスローガンに、たまらなく物足りなさを感じてしまう。
 そこに、時空的な観点からの評価に耐えうる理由も欲しくなるのである。
 すなわち、50年後や100年後の時代から見た場合に現在の判断がどう映るのか、我が国の経済という狭小な規模だけではなく人と自然の複合体である地球という大きな規模からみた場合に、現在の我々の判断はいったいどう評価されるのか、ということである。
 総監技術士が誕生したその歴史的意義は、いみじくもこの技術者の持つべき志向性の転換を促すことにあるのではないだろうか。
 このようにして、経済至上主義に代わる新たな価値軸が我々技術者も含めた多くの人々の心に根付き始めたとき、初めて本物の明るさが我が国に灯るような気がするのである。
 最後になりますが、学芸出版社兜メ集部の中木保代様へ。あなたの数多くの助言によって、こうして本書を読者の方にお届けすることが叶いました。深く感謝いたします。誠に有難うございました。

平成25年春 ビジネスマン自立実践会