聴く!技術士二次試験 論文のツボ


はじめに


ダメ技術者が一発で合格し続けたワケ

 実は、本書を書いている私は、文系の出身である。
 もう、20年以上も前になるが、もともと国立大学志望で過ごしていた高校2年生のとき、基礎解析の授業についていくことができなかったため、共通一次試験(いまの大学入試センター試験)の受験をあきらめて、
「作家になれたらいいなあ……じゃあ、私立の文学部に行こうか……」
 などと、他愛もない夢を抱いて私立大の文学部に何となく進んだような、そんな中途半端な文系人間だったのである。
 それから、様々な変遷を経て、建設コンサルタントを務めるに至ったのだが、その経緯は、私が運営する「技術士合格の仕組み講座」のホームページ(http://gijutsushi-jiritsu.com/)に詳述しているとおりである。
 しかし、技術者になりたての私に対し、上司は、
「君は、経歴が経歴だからもうちょっとがんばるかと思ってたけど……、まあ……まあだね。良くも悪くもない」
「今年も、僕の後輩で、君みたいなチョット変わった経歴の人の入社の話があったが、私は合格させなかったよ」
 などと言われるツライ日々が、入社から数年に渡り続いていたのだ。
 しかもその間、恥を晒すようだが、あまり理系的発想が得意ではない、つまり数字に強いわけではない私は、専門知識の不足に起因するものから単なるケアレスミスまで、仕事上で実に数多くの失敗を繰り返してきた。
 業を煮やした顧客から私の上司にクレームが飛んできたこともある。
 そして、そのクレーム処理票が社内のクレーム対処法の見本として公表されてしまったことすらある。
 決して、手を抜いていたわけではない。
 その原因は、センス、実力、人間関係など、いろいろとあったのだろう。
 しかし、私自身の焦りに反比例して、社内における私の位置付けは、一向に好転する気配がなかった。
 そんな私が、最短での一発合格を続けてきたのである。
 技術士補、下水道技術検定第1種、技術士(上下水道部門)……。
 そして、総合技術監理部門の受験のときには、
「やっぱり出世する人はちがうねえ」
「もう、キミなら一発で合格するんだろうねえ。おごってくれヨ!」
 などと、皮肉にしか聞こえないような周りの声を聞きながらも、確かに自分でも“一発で合格する”ということについては「おそらくそうなるだろう」という確信を抱きながらの受験となった。
 しかしその年は、技術士二次試験に合格した直後でもあったため、多くの技術コンサルティング業務の主任技術者もしくは管理技術者を務め始めていた頃でもあり、また海外出張なども重なって、直前まで多忙を極めていた。
 そのために、実はほとんど勉強らしいことはできなかったのだが……。
 それでも、結果的に、合格した。それも、相当の確信を持った中での合格だった。
 これは、明らかに運ではない。
 かといって、会社のスーパーエースとは対極にいた私であるから、実力などでもない。
 では、いったい何なのか。
 それは……、コツとしか言いようがない。
 コツといえば聞こえが悪いが、いわゆるノウハウである。
 それまでの受験体験をベースにして技術士受験におけるノウハウを自分で創り上げ、そしてそのノウハウを実践していったことが、一発合格という結果をもたらしたのだと思っている。
 私は、本書の中でそのノウハウをあなたに授けようと思う。
 しかし、誰にも彼にもこのノウハウを授けるのにはためらいがある。
 なぜなら、このノウハウは、私が自分自身の人生を真剣に考え、必死の思いで築き上げたものであり、私自身の宝物であるからだ。
 だから、あまり自分自身と向き合いもせず、家族を大切に考えず、単に楽して技術士試験に合格したい、などという人に伝えたいとは思わない。
 たとえどんな対価があったとしても、決してそうは思わない。
 その一方で、自分の力でなんとか人生の壁を打開したい、這い上がりたい、と真摯に考え、そしてそのために必要な努力を惜しまない人には、果てしない同情を感じ、ノウハウの隅の隅までさらけ出したい気持ちを抱いている。
 当然、あなたは、後者であると私は思っている。
 ならば、是非この期待に応えてみて欲しい。
 少なくとも、「自分には一発合格なんてできないかも……」などと、最初から可能性を狭めてしまうようなことだけは、決して考えないでほしい。
 禁物だ。
 すべてにおいてこの後ろ向きな考え方は、厳禁だ。
 成功は、あなたが「自分でもなんとかなるかも……」と根拠のない自信を抱くことに萌芽するものなのだから。

 本書で述べる技術士二次試験の一発合格のノウハウは、実はすべての技術部門において共通なもの、普遍的なものである。
 技術部門の相違というのは、単にそれぞれが保有する知識のジャンルが異なるだけであり、その知識を駆使して課題を解決するプロセスについては、まったく同じなのである。同じ技術士なのだから、そうでなければおかしい。
 そのようなことから、本書ではそれぞれの技術部門として保有すべき専門知識そのものについては、収録の対象としていない。
 ただ、本書では、この専門知識の習得について、きわめて効率的に習得する手法をあなたにお伝えしようと思う。
 本書は、あなたが、あなた自身のために必要な努力をすることを前提に、どんなレベルの人でもなんとか合格率が60%に達するように、無駄な努力を排除することを第一に考え、作成したものである。
 ぜひあなたも、本書をもとに「根拠のない自信」を抱き、「効率的な学習」を行って、勝算をきちんと確保しながら、悠々と技術士試験に合格しよう。

あなたにとって技術士試験とは……?

 あなたは、きっと民間企業や役所、各種団体などにおいて工学を専門分野として働いている一技術者なのだろう。かつては高校もしくは専門学校、大学や大学院で理工系学科の学業を修め、いまの技術職に就いているのだろう。
 そんなあなたの子供の頃は、きっと国語より算数、社会より理科が好きだったことだろう。
 もしそうだとしたら、今のあなたは、“文章を書く”という行為を苦手だと感じてはいないだろうか。
 もしそうだとしたら残念なのだが、後述するとおり、この技術士の試験は一級建築士試験などとは異なり、“論述”が大きなポイントなのだ。
 冒頭に述べたとおり、本書の著者である私は、元々、文系の出身である。
 数学大嫌い、国語まあまあ、社会科大好き、理科なんて興味ない、という、おそらくあなたとは対極にいるような子供だった。
 中学高校の頃は、国語の教科書に出てくる文学作品に思わず心打たれ、授業そっちのけで読み耽ってしまうような、そんな典型的文系人間だったのだ。
 しかも、その属性は、悲しいことに未だに抜け切っていない。
 もっとも、コンサルタントを生業にすると、業務上、実験などの各種データを用いて数理的な解析を要求されることもある。
 文系人間だから、報告書の作成などといった文章を紡ぐような作業は「得意!」とは言わないものの「嫌い」ではないが、こと数理的根拠をもとにして考察を加えるような作業に至っては、恥ずかしい話、数字や方程式などが続出するという面で、めっぽう弱いというのが正直なところである。
 はっきり言って、向き不向きで言えば、このような工学的技術を売りにする職業は、私には向いていなかったかな……と感じている。
 あなたはきっと、そんな私のような深刻な状態にはないだろう。おそらく、現在の技術を売り物にする職業に対し、それほどの違和感はないことだろう。
 しかし、“文章を紡ぐ”ということについて考えてみると、どうだろうか。
 私のような変わり者が比較的得手としているのに対し、あなたも含めた多くの技術者は、理系出身ということもあって比較的不得手と思い込んではいないだろうか。
 あなたは学生時代に卒業論文というものを経験しているかもしれないが、理工学系の場合、あくまでも研究成果の内容や論拠となるデータの客観性などといったものについて正確であることが求められ、その研究の意義やデータの客観性なりをいかにわかりやすく表現するかということについて、十分な時間を割いて考えたことは、あまりなかったであろう。
 そんなあなたが、論述が大きなポイントとなる技術士試験にこれから挑もうとしているのだ。
「筆記試験の論文問題って、結構ハードル高そう……」
「体験論文なんて書くほどの立派な業務体験してないし……」
「文章もあまりうまくないし、良い論文を書く自信なんてぜんぜんない……」
 などと、思い込んではいないだろうか。
 繰り返すとおり、先に可能性を狭めてしまうこのような思考は禁物だ。
 ……もっとも、あなたの不安も、わからないではない。
 たしかに、私がこれまでに依頼されて添削した技術的体験論文を振り返ってみると、論旨が明快で自分の考えを相手に訴えるような迫力のあるものは少なく、むしろ、上出来であっても、淡々と事実関係だけを並べ続ける、いわゆる「業務報告」にとどまっている程度のものが多いような気がする。
 中には、技術体験以前に、作文として驚くほどレベルが低いものもある。
 技術士二次試験の技術的体験論文について合格論文かどうかという観点から評価すると、あまりにも物足りない事例が多いような気がする。
 もしかしたらあなたにも当てはまってしまうのかもしれない……。
 しかし、心配することはない。まったく心配することはない。
 なぜなら、「君には技術者として適性が感じられない」と上司から烙印を押されるような私が、ある方法を実践することによって、技術系資格試験をすべて一発で合格してきたのだから。
 私は、あなたに、本書と講義CDを通じて、度重なる試行錯誤と幾多の挫折の上に創り上げた技術士二次試験の論文対策のツボをお伝えしたい。
 あなたは、私が示すノウハウを実践することによって、技術士合格への道を短期間に突き進んでいくことができるだろう。
 一発合格の手段をお伝えするのだから、あなたは次の技術士試験において、合格という果実を確実に手に入れなくてはならない。
 なぜなら、技術士試験はあなたの成功のための一つのステップに過ぎないからである。
 では、そもそもあなたは、何のために技術士の資格を取得しようとしているのだろうか?
 みんなが取るから、あなたも何となく取るのだろうか。
 技術士の資格をとって、今までと同様、いや、今までよりもなお一層、業務に忙殺されるだけの毎日を送りたいのだろうか。
 上司や顧客の顔色を伺いながら、辛い思いをして膨大な業務をこなす毎日……それが果たして目的なのだろうか。望んでいる姿なのだろうか。
 そのような努力があなたにシアワセをもたらすのだろうか。
 あなたが「技術マニア」や「技術屋」と呼ばれるような人なのであれば、そのようなことが目的になるかもしれない。自らが楽しいと感じることによって忙殺されているのだから、一応、シアワセなのである。
 しかし、あなたはどうなのか?
 あなたは、そのような単なる「技術マニア」や「技術屋」で終わる人生を送って、果たしてシアワセになれるのか??

 これを機に、一度真剣に自分自身に問いかけてみてほしい。
 他ならないあなたの人生なのだから。
 あなたは組織のコマとして、組織が繰り出す方針や命令に唯々諾々と従い続け、家族とわが身を犠牲にして組織の都合を最優先にするような生涯を歩むのだろうか。
 それとも、組織の常識に依存せず、あなた自身の価値基準をもとに能動的な判断を繰り返していくような人生を送ることを選択するのだろうか。
 私は、前者のような人生を否定しないし、無意識のうちにそのような判断をしている人が大多数であることも、事実であろう。
 しかし、大事なことは、「いったい、自分はどう生きたいんだ??」というQuestionを、人生も半ばに差し掛かりつつある自分に対して改めて投げつけるだけの勇気があるかどうか、なのである。
 成功する人生を歩むか否かは、すべてこれにかかっているのだ。このQuestionのない人に成功は決して訪れないと思ってよい。
 むろん、あなたにとっての成功とは、あなた自身がシアワセな人生を送ることに他ならない。シアワセをもたらさない出世や財産は、何ら成功の尺度となり得ないのである。
 あなたは、きっと、今後の自分の歩む道を真剣に考えてくれることだろう。
 そんなあなただからこそ、技術士試験などという、こんなつまらないモノで躓いていてはいけないのである。
 技術士試験などというものは、所詮、自動車の運転免許と同じなのである。
 技術士試験に合格する、などということは、あなたの人生の中で単なる通過点の一つに過ぎないのである。むしろ、あなたの本当の勝負は、そこから先にあるのだ。

 前置きが長くなったが、あなたが本書で一発合格のノウハウを知り、それを実践すれば、技術士試験において無駄な時間を浪費することも、躓いたまま立ち直れなくなることもない。
 それだけではなく、これから能動的な生き方を実践していくために有効なコミュニケーション能力を身につけることもできる。
 あなたには、是非、単なる技術者ではなく、組織の中で自立した一ビジネスマンであるという自覚のもとで、この技術士試験の勉強プロセスを辿っていってほしいと願う。
 さあ、あなたも本当の成功のため、技術士試験合格に向けて、一歩目を踏み出そう。