SDGs先進都市フライブルク

はじめに

国連が世界の共通目標として、SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な発展のための目標)を2015年に決めてからまだ4年も経っていないが、書籍の通信販売サイトで検索すると、「SDGs」を冠する単行本は、2019年6月現在53冊もある。これらにはSDGsの17の目標の意味や国際的課題の解説、企業経営や教育への指針、具体的取り組みの紹介や行動のヒントなどが書かれている。しかし、地域の持続可能性や地域課題解決の取り組みなど、地域とSDGsの関係性について深く言及した本はごく少なく、これらの本を読んでも、持続可能な都市=本書で言う「SDGs先進都市」の理想的な姿・形は見えてこない。これは、これまで私自身が共著者・編著者として関わった二つの著作にもあてはまる。

私は語呂合わせが得意なので「SDGs先進都市」の定義=必要条件を以下のような語呂で示したい。

  • S:Shimin→市民主体の取り組み
  • D:Douji→同時解決の取り組み
  • G:Goal over Generation →世代を超えた明確な目標に基づく取り組み
  • s:Sekai→世界と繋がった取り組み

私は取り組みの大半がこの四つの条件に当てはまる都市こそが「SDGs先進都市」を名乗るにふさわしいと考えている。ではこの定義に沿うと、「SDGs先進都市」は、日本にどれくらいあるであろうか?

内閣府は「SDGs未来都市」として、2018年、2019年それぞれ約30の市町村・都道府県を指定したが、これらの都市はまだ発展途上であって、私が定義する「SDGs先進都市」のレベルには達しているとは言いがたい。具体的に言えば、SDGsに関する取り組みの大半は行政主導で実施されており、数分野で“市民参加”が行われていればまだ良いほうである。また、既存の施策を17の目標と紐つけしただけで、複数課題の同時解決の視点から組織横断的な新たな施策を打ちだしているところは少ないし、持続可能な発展のための将来目標・指標を設定しバックキャスティング(未来を起点に今取り組むべきことを考える方法)で施策を選定していることは稀である。ましてや世界の国々や都市と連帯し、国際的課題を解決しようとしている自治体はごくごく少数である。

一方海外の都市に目を転じてみると、「SDGs先進都市」と言えそうな都市はいくつか存在する。本書で取り上げるドイツのフライブルク市は、上記の4条件に当てはまる都市の最右翼である。本書は、SDGsの17のゴールに対応した17章で構成しているが、そのすべてがフライブルク市民もしくはフライブルク市役所による取り組みである。17分野すべてを一つの都市でそろえられる自治体は日本には存在しないし、世界的に見ても稀であろう。

本書の終章では、フライブルク市がなぜ「SDGs先進都市」にもっとも近いと言えるのかという成立要因や、日本の自治体がフライブルク市に近づくための秘訣=指針と取り組みのアイデアを紹介した。したがって本書は、内閣府の言う「SDGs未来都市」を目指す自治体の“指南書”として活用いただけるものと確信している。むろん、フライブルク市とは違った形の理想型がいくつも存在すると思うが、少なくとも自治体の首長や行政職員の行動指針や新機軸の政策実行のヒントになる書である。

繰り返すが、本書で詳述しているフライブルク市のSDGsに関する取り組みの主役も、社会・経済・環境の好循環の恩恵を受けているのも市民であり企業である。したがって本書は行政だけでなく、SDGsの取り組みを実践する市民の活動指針として、また企業の地域レベルのCSR(社会貢献)や市場開拓のヒントとして、幅広い読者に有用であるはずである。

令和という新たな時代の幕が開けた。本書で紹介した取り組みをヒントに、日本でも多くの自治体・市民・企業が新たな一歩を踏み出し、多様な主体による地域課題解決の取り組みが実践されることを願ってやまない。

2019年7月 著者代表 中口毅博