ストリートデザイン・マネジメント
公共空間を活用する制度・組織・プロセス


おわりに

 すべてのストリートは人間が自らつくり使い続けてきた。ストリートは、都市を学ぶ教材でもあり、観察するといろいろな発見がある。人の営みや思いが凝縮された場所でもあり、ストリートを変えることは地域社会を変えていくことにもつながる。
 筆者らは、都市の中で最も重要な要素としてストリートに着目し、本書の出版につながる共同研究プロジェクトを進めてきた。
 本書は、日本学術振興会の科学研究費助成事業・基盤研究(A)(一般)『「ストリート」の管理と利活用を通じた公共空間の公共性と地域ガバナンスの段階的発展』(課題番号26249085、2014〜2016年度、研究代表者 出口敦)の研究成果に基づき、研究代表者・分担者らの研究グループが中心となり執筆している。
 研究グループとしての研究に先駆け、筆者らは福岡市、柏市、名古屋市、横浜市、石巻市などのフィールドにおいて、ストリートデザイン・マネジメントの実践も積んできた。そうした実践のなかで、これからの時代に向けて、ストリートを歩行者にひらくことの意義を強く感じ、エリアマネジメントなどの民間組織や公民連携によるストリートのマネジメントが進む感触をつかんできた。実践を通じて、法制度や施策の実施方法などに多くの課題があることも身をもって体験し、デザインとマネジメントを一体として捉えることの重要性も強く認識するようになった。そうした個々の経験の蓄積をより体系化された経験知としてまとめる必要性を感じたことが、本書出版の原動力となっている。
 本書の著者は、都市計画学、土木工学、建築学分野の研究者であり、実践者である。これらの分野は、特に実践と研究の両面からアプローチが求められる分野でもある。実践により得た知見を研究を通じて理論の構築へとつなげ、研究を通じて考案した方法論を実践に応用する。研究と実践を両輪とする活動スタイルを特徴とする研究者や実務者だからこそ論じることができる内容が、本書を特色あるものとしている。
 本書は実例を取り上げながら、「ストリートデザイン・マネジメント」へとアプローチしていく構成としているが、時間的、分量的な制約から未消化の部分もあると認識しており、本書の出版を契機とする今後の実践や研究のさらなる発展を期待したいところである。また、ストリートデザイン・マネジメントの国内外での取り組みを進める活動家や研究者のネットワークづくりも進めていきたいと考えている。そのために、本書の刊行はウェブサイト(i-love-street. com)の開設とも連動している。今後はこのウェブサイトをプラットフォームとして、継続的に情報交換の場をつくっていければと考えている。関心のある方々にはウェブサイトにアクセスし、活用していただきたい。
 本書の出版にあたっては、資料の提供・収集や事例リストの作成にご協力いただいた久野恭平さん、小西美代子さん、井桁由美さんをはじめとする方々、東京大学出口研究室の学生やスタッフの方々、事例研究でのヒアリング調査や資料提供にご協力いただいた自治体や関連団体の方々に厚くお礼申し上げたい。また、企画段階から熱心に相談にのっていただき、本書の出版を牽引していただいた学芸出版社の宮本裕美さんに心から感謝申し上げたい。

2019年3月
出口 敦