小さな空間から都市をプランニングする


おわりに 都市の未来に対する期待と自負

〈仕事〉から〈空間〉へ

 私たち“都市空間のつくり方研究会”は、“次世代の「都市をつくる仕事」研究会”の成果を踏まえながら、魅力的な都市はどのようにつくることができるのかを考え続けてきた。前書『いま、都市をつくる仕事』では、都市の魅力を生み出す〈仕事〉に視点をあて、これからの都市に対する関わり方を探った。学生や若い実務者に、都市に関わる可能性を提示できたことは何よりの喜びである。前書を読んで都市をつくる仕事に就くことを決めた学生も、いまや立派な専門家として活躍中である。その後も多くの人たちがさまざまな仕事を通じて都市との関わり方を開拓し続けていることこそが、魅力的な都市をつくる原動力になっていることに変わりはない。
 一方で、前書では挑戦的な仕事を通じて生み出された〈空間〉の持つ特質が、どのようなものなのかについては十分に触れることができなかった。そこで本研究会では、都市へのさまざまなアプローチの結果として生み出された、一つひとつの小さな〈空間〉に焦点をあて、そのつくり方を分析することから魅力的な都市のつくり方を考えていくことにした。本書を通じて、若い世代が都市の未来に対して期待を持てるようになれば大変幸いである。

プロセスの持つ価値

 まずは研究会で取り上げる空間を選定することからはじめた。メンバーそれぞれが都市を魅力的にしていると感じる空間を集め、議論を重ねていった。もちろん、はじめから明確な答えがあったわけではない。集められた空間を実際に歩き、それをつくり出してきた方々との対話のなかから、その空間と都市との関係を考えてきた。
 確かに魅力的な空間は増えてきた。しかし、いくら空間の質がよくても、その魅力が敷地やエリアに閉じてしまっていては都市の変化は生まれない。研究会での議論を通じてわたしたちが実感したのは、魅力的な空間をつくるということは、結果としてできあがった空間が魅力的なだけでなく、つくり方そのものにさまざまな工夫が凝らされているということだ。魅力的な空間のつくり方には、その空間と都市との関係を築くプロセスが含まれている。本書で見てきた具体的な事例は、そのようにしてつくられてきた空間である。空間そのものが持つ価値はもちろんのこと、それらがつくられたプロセスにこそ大きな価値が隠されている。
 それは本書のつくり方でも同じだ。研究会の成果としての本書そのものの価値とあわせて、議論を重ねたプロセスにも大きな価値があった。本書は2013年の研究会の発足以降、約6年間にわたる議論の成果をまとめたものである。本書の発行までには、大変長い時間がかかってしまった。当初の予定から大幅にスケジュールが遅れたことで多くの方々にご迷惑をお掛けしたことを、この場を借りてお詫びしたい。一方で、長い時間をかけてきたからこそ、じっくりと議論を重ね、途中で目標を変化させながらも、たどり着いた一つの答えがここにある。しかし、本書の出版はゴールではない。これから本書が読者の手に渡ったあとに、どのように読者の役に立つかが研究会が考えたプランニングの本当の成果である。ぜひ、多くの方々に手に取っていただき、研究会の議論を追体験することで、空間と都市との関係を考えるプロセスを共有してもらいたい。読者のそれぞれの立場から、都市をプランニングする方法を見つけ出してもらえるのではないかと期待している。

対話から空間のつくり方を考える

 本書の制作では、多くの方々にお世話になった。特に本書の起点となっている各事例に携わった方々には、さまざまな知見をご教示いただいた。研究会では、2013年9月から2015年1月にかけて、対話でつなぐ連続座論「都市空間のレシピ」と題した公開研究会を開催してきた。毎回一つの事例を対象に、現地に赴き、その空間のプランニングに携わった方々をお招きして議論を重ねてきた。1章で取り上げた事例の多くは、この公開研究会の成果をもとにしている。また、その他の空間についても研究会のメンバーが、実際にその空間に携わった方々の生の声から、つくり方のプロセスを丁寧にご教示いただいた。公開研究会をはじめ各事例でご協力をいただいた方々は表1、2に示した通りである。皆さまとの対話から生まれた至宝の言葉の数々が、この研究会の原動力となっていることに最大限の感謝の言葉をお返ししたい。
 また、本研究会の設置を認めていただき、さまざまなサポートをしていただいた日本都市計画学会関係者の皆さまをはじめ、研究会のメンバーとしても活動をともにしながら編集にあたって多大なご尽力いただいた中木保代さま、岩切江津子さま、前書から引き続き素晴らしい装丁で本書の意図を表現していただいた原田祐馬さま、山副佳祐さま、その他これまで研究会にご参加いただいたすべての皆さま、数えきれない対話を通じて、本研究会を支えていただきまして本当にありがとうございました。

都市の未来は変えることができる

 本書を書き終えて、わたしたちは都市の未来に大きな期待を抱いている。プランニングとは、それをはっきりと目に見えるように描き出していくプロセスのことだ。あなたは、いま、目の前にある空間に都市の未来を感じることができるだろうか? たとえ賑やかな空間が見えていたとしても、都市に夢や希望が見出せなければ、都市はどんどん遠い存在になってしまう。わたしたちにできることは、小さな空間のつくり方を変えることで、都市の未来に期待を抱けるようにすることだ。
 空間も都市もわたしたちのためのものである。そして、空間も都市もわたしたちがつくっていくものなのだ。都市の未来をつくるのはわたしたちである。そのために、いま、小さな空間から都市をプランニングすることが必要だ。

研究会を代表して
武田重昭