地域産業のイノベーションシステム
集積と連携が生む都市の経済


おわりに

 地方は、研究開発、イノベーション、ベンチャー企業とは無縁な地域なのか。このことを30年以上考えてきた。1980年に打ち出されたテクノポリス構想は、そのネーミングのカッコよさから、地方自治体の首長による通産省への激しい陳情があり、通産省は一時門を閉じたという。
 テクノポリスは、世界的な注目を集めた。本家の日本は、科学技術都市の創出ではなく、工業生産のみをテクノポリス計画の成果指標とした。しかも1980年代から1990年代にかけて、脱工業化、工場の海外展開、工場内での機械化やロボットの導入、バブル崩壊によって、ほとんどの指定地域で出荷額、工場労働者などの生産指数は減少した。
 テクノポリスに代わる地域振興モデルを求めて、シリコンバレー、スタンフォード大学、ルート128、北京中関村、深、シンガポール大学、ケンブリッジ大学サイエンスパーク、フランス・ニースのソフィアンティポリスなど、世界のハイテク地域を視察してきたものの、日本の地方振興に直接応用できるアイデアや視点はほとんど得られなかった。それは、NISに差異があったからである。地域という「部分」だけを切り取って移植(クローニング)しても意味はない。
 大企業と中小企業の階層的格差(二重構造)、大企業のみを対象とした国の研究開発組合、ベンチャー企業ではなく、大企業の内部で実現されてきた日本の「産業構造転換」、東大・京大を頂点とした階層的な学術研究体制、本社都市東京と支店都市との階層的都市システム。これまでは、地方単独で頑張ってもどうしようもない「強固な岩盤」が存在していたのである。
 本書の各章で論じられているように、その「強固な岩盤」は、外部からも内部からもゆるやかに崩れ始めている。本書が日本の新しいNIS、RISを考えるきっかけとなることを祈っている。

執筆陣を代表して
山崎 朗