まちの価値を高めるエリアマネジメント


はじめに


 本書は、森記念財団が2016年以来進めている「エリアマネジメント調査研究」の内容のなかから、エリアマネジメント活動(以下、エリマネ活動という)に注目して、「まちの価値を高めるエリアマネジメント―エリマネ活動と活動空間―」としてまとめたものである。
 わが国のエリマネ活動は黎明期から十数年が経過し、本格的な活動を進める時期にきており、2016年には全国組織である「全国エリアマネジメントネットワーク」が結成された。先駆けとしてのエリマネ活動を担った大丸有エリアマネジメント協会の活動や六本木ヒルズタウンマネジメントの活動から始まり、わが国のエリマネ活動は現在、多様な展開を見せている。またエリマネ活動を実践する空間も公開空地のような民地上の空間から始まり道路空間、公園空間などの公共空間へと多様化している。
 わが国のエリマネ活動は、アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツなどのBID活動に比較しても多様化しているのではないかと考える。そこで、わが国のエリマネ活動の実態と活動が展開している空間の実際を事例をとおして示す。さらにエリマネ活動については新たな活動の可能性を、また活動空間については公民連携による積極的な活用の可能性について言及したいと考える。

エリアマネジメント活動

 これまでのエリマネ活動を類型化して考えると、まずエリアが抱えている課題を解決する活動がある。次に、エリアが擁している資源を活用する活動がある。このような活動を実践することにより関係者間の絆は強まり、エリマネ活動は深化する。さらに、これからの社会動向に対応するエリマネ活動、すなわち「新たな公」を担う活動に乗り出すこととなる。
 具体的な活動事例を第2章では紹介しているが、それらを列挙するとエリアの目標づくり、賑わいづくり、情報発信、清掃・防犯、コミュニテイづくり、管理・整備を基本的な活動としつつ、近年では防災・減災活動、環境・エネルギー活動、知的創造・交流活動、食育・健康活動などが加わり多彩である。
 わが国のエリマネ活動が常に参考にしているものとして、第3章で紹介する海外のBID制度(Business Improvement District)があるが、わが国ではそれら海外のBID活動とは一線を画する活動が進められようとしていると考える。

エリアマネジメント活動空間

 エリマネ活動空間の多様化については、第4章でまとめて紹介している。エリマネ活動空間は、公開空地やアトリウム空間などの民地上の公的空間をはじめ、近年では道路空間、水辺空間、さらには公園空間などの公共空間にも及ぶようになっている。
 またエリマネ活動に関わる空間活用関係主体は、エリアマネジメント団体(以下、エリマネ団体という)、エリアに関係する地権者、実際にエリマネ活動を主催する主催者、道路・公園などの管理者、および交通管理者などの行政関係主体など多様である。
 エリマネ空間を活用するには、まずエリマネ団体がそれら関係者を調整する役割を担う必要があるが、その際「仲介者」や「コーディネーター」としての役割と、行政の補完機能を担う「公的な立場」の2つの役割があり、そのための実績を積むことが重要である。そこで本書では実践を積み上げてきているエリマネ団体に着目して、その活動を紹介している。
 さらに公開空地、アトリウムなどのような民地上の公的空間、道路、河川沿川(えんせん)、公園などの公共空間には、利用する際の手続きや留意事項があるので、それらを実践している関係者からの意見も踏まえて、利用にあたっての手続きの全体をまとめて紹介している。さらに公共空間などを活用するための規制緩和をとおして公民連携の仕組みが整えられつつある事例もある。そのような事例の今後の展開も重要になることから、その紹介をしている。
 わが国では、公的空間、公共空間(以下、公共空間等という)の活用はそれほど実績があるわけではなく、現在、各地のエリマネ団体が社会実験などをとおしてその可能性を追求している。そこでそのような社会実験の実際も事例をもとに紹介している。
 また「コラム」や事例紹介を設けて、興味深い事例についてまとまった紹介を試みている。
 今日、エリアマネジメントの仕組みを制度化する動きが、すでに大阪版BID条例のようなかたちで実現しており、さらに国においても2018年にエリアマネジメント法制が地域再生エリアマネジメント負担金制度として実現する予定である。エリマネ活動の今後を期待したいと考え、本書を上梓する。
2018年5月11日 小林重敬