コミュニティと共生する地熱利用
エネルギー自治のためのプランニングと合意形成

あとがき



 日本の再生可能エネルギーは、確実に新たな段階に入っている。かつての「再生可能エネルギーを導入するべきか」という議論は、今や再生可能エネルギーを「いかに導入するか」という議論になってきている。

 電力会社に発電の多くを任せていたころ、都市でも地方でも、一般に人々はエネルギー「消費者」であって、エネルギーの生産に携わることは極めて稀であった。しかし、再生可能エネルギーの本質は「分散型」である。つまり、大手電力会社が戦後長きにわたって行ってきたエネルギーの生産は、分散し、生活圏(コミュニティ)の近くにやってくる。

 地熱利用に関しても各地で計画が立ち上がっているが、それらの地域がこれまでエネルギー生産には縁遠かったとしても全く不思議ではない。日本のエネルギー需給構造そのものが、長らく「分散した」エネルギー生産と無縁だったからだ。しかし、生活する人々の理解と協力を得、人々の生活に資するエネルギーたることが、再生可能エネルギーに期待されている点である。それぞれの地域に経済的・社会的便益をもたらしてこそ、再生可能エネルギーの「健全」な導入と言えるし、日本でそのような導入をいかに進めていくかを広く考えていくことが社会的要請となりつつある。

 本書は地熱利用を扱ってきたが、再生可能エネルギーとわれわれの関わりは今後深くなることはあっても、その逆はあり得ないはずで、本書の提起した地熱や再生可能エネルギーの社会的側面やより良い導入に今後さらにスポットがあたっていくことを祈念している。

 なお、さまざまな制約のなか、本書で扱うことができた事例に限りがあったこと、技術的な面については、国内外の他書に譲らざるを得ない面もあったこと、ビジネスとしての地熱プロジェクトの難しさと可能性について扱えなかったことなど、反省は多い。しかし、地熱技術や社会制度について習熟している国内外の多くの専門家を会して本書を世に出すことができたことは、望外の喜びである。

 本書の刊行は、地熱利用に関係する多くの方々のひとかたならぬご協力・ご尽力の上に成り立っている。ときに山深い、または雪多い地域にあって、難しい地下のエネルギーに向き合い、軌跡と今後の指針を示してくださっている皆様に心からの敬意と感謝を申し上げたい。また、本書の執筆に参加してくださった著者の方々、特に全体について多くのアドバイスをいただいた安川香澄さん、企画から刊行に至るまで万般の配慮をいただいた学芸出版社の方々と岩切江津子さんに、深くお礼申し上げたい。



2018年3月 編者を代表して 諏訪亜紀



本書の出版に際し、京都女子大学から平成29年の出版助成を受けた。執筆者一同、記して謝意を表したい。