地域がグローバルに生きるには
地方創生と大学教育

はじめに

 本書は、私が和歌山大学で副学長として取り組んできたグローバル教育の紹介を中心に、社会全体でどうグローバル人材を育てていくのか、なぜ地方にグローバル教育が必要かについて考えをまとめたものである。
 ビジネス界で生きてきた人間が、突然、地方大学の副学長に指名された理由については、私自身今でも明確に分かっている訳ではない。確かなのは、私が就任した頃、和歌山大学には体系立ったグローバル教育が存在していなかったということ、それどころか日本全体でもまだ「グローバル教育」という概念すら共有されていなかったということだ。おかげで私は、何もかも白紙の状態から思う存分、自分が世界でビジネスに取り組む間に必要だと感じてきた力を育むプログラムをまとめあげることができた。
 その後、グローバリゼーションに対する意識が高まり、グローバル教育を取り入れていない大学は今ではほとんどなくなった。それでも、そこで何を目指すのか、どう学ばせるのかの方策については、まだ十分に整理されていないように思える。もちろんその答えは一様ではないが、これからグローバル教育のカリキュラムを設計しようとする大学にとって、私たちの取り組みが何らかの参考になるのではないかと考えている。また何よりも、地方の小さな大学が「身の丈のグローバル教育」を築いてきた経験を、同じような全国の地方の大学に共有してほしいという願いを持っている。
 最後に本書の構成について述べておく。1章では私が大学で働くことになった経緯を、そして2章から6章では、和歌山大学で取り組んだグローバル教育について紹介した。7章では、大学の視点から産業界に求めることについて書いている。今、地方の衰退を食い止めるためにさまざまな試みがなされているが、47都道府県、地方都市から中山間部まで、地方は多様で、一元的な政策だけでは問題は解決できない。それよりも、地方が自らの力でどう光り輝けるのか。自身の経験も織り込みながら、グローバルの観点からその可能性についての問題を提起した。そして8章と9章では、なぜ地方にグローバル教育が必要なのか、和歌山大学に勤務する6年間で探し続けてきた答えを綴った。
 本書はあまりに多くの視点で書いているので、読まれる方によっては散漫に映るかもしれないが、それぞれのお立場でお読みいただき、グローバル教育を考える際の一助としていただければ幸いである。