地域がグローバルに生きるには
地方創生と大学教育

おわりに

 2017年4月現在、タイプログラムの修了者は100名近くになった。インドネシア、ベトナム、ラオスプログラムの修了者の数は計り知れない。その中にはすでに世界で活躍している者もいる。日本で世界との接点となって働いている者もいる。地域のボーダーを越えていった学生も、世界の子どもに日本語を教えようと大学院に進学した者もいる。世界中に散らばっていても、彼らの心は常に仲間とつながっていて、地域と共にある。
 「アジアのどこかに学生を送って苦労させてほしい。苦労させて人生を考えさせて欲しい」という学長の思いで始まったプログラムは、今、一つの答えを出した。「10人が変われば100人が変わる。100人が変われば大学全体が変えられる」という学長の夢も、実現したのではないかと私は思う。TOEFLやTOEICのスコア、外国人教員の比率などのように、その成果は数字では示せないが、大学のあちこちで小さな渦が生まれ始めていて、やがてそれは大きな渦となって地域を流れていくだろう。その渦の中心に大学のグローバル教育があり、地域がそれを支えている。
 私は5年と7カ月の間に経験してきた、この地方の小さな大学の小さな取り組みを、全国の地方の大学や地方の方と共有したいと願って執筆を始めた。原稿を書き進める中で、改めて学生の声を聞いてみた時、その一生懸命な姿に私は強い感動を憶えた。和歌山県の人口は100万人を割り、その減少率は秋田県に次いで全国2番目と言われているが、彼らがいる限り、大学が彼らのような人材を輩出し続ける限り、地域は輝きを失うことはないだろう。「後は彼らに任せておけばよい」という安堵感を心の中に抱きながら、私は今、筆を措こうとしている。
 最後に、本書の執筆にあたり、共に奮闘した時間を振り返り、協力を惜しまなかった和歌山大学教員の藤山氏と学生たちに感謝したい。何よりもいつまでも原稿を書き終えられない私を励まし続けてくださった学芸出版社の前田裕資社長と、辛抱強く校正にお付き合いくださった担当の松本優真さんに、そして学芸出版社を紹介して出版の夢を叶えてくださった京都府立大学の宗田好史先生に、心からのお礼を申し上げたい。