ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか

質を高めるメカニズム

おわりに―お喋りな都市に宿る創造性

 都市とは完成形ではなく永遠のベータ版だ。そしてその質を維持・向上し続けるしくみの解明を試みたのが本書である。都市のアップデートが可能なのは創造性によるところが大きい。では都市の創造性とは何かというと、自由に意見を交わし、課題や価値をオープンにし、そして実際の取り組みにしていく「自治の力」とでもいうものが核になっているように思う。エアランゲンに住んでいると、カフェやフェライン、広場などでものすごく言葉が溢れているように感じるが、これが「自治の力」の源泉なのだろう。
 よくドイツは日本と似ているといわれるが、その背後にあるものはかなり異なる。だから外国人の私が、ドイツのことを伝えることは常に「歴史的・社会的文脈」「意味」「表現」の検討が必要で頭を悩ませる。ドイツの取り組みを表面的に日本に導入しようとしても、劣化コピーで終わってしまう可能性は高い。しかし、一つの地方都市のメカニズムを見ることで、日本の地方でも自治のあり方そのものを議論する材料にはなる。身近な例を挙げれば、お喋りのかたちから考え直すことだ。誰と、どこで、どんな価値を重視し、どんな関係をつくりながら我々はお喋りをしているのかと。おそらくそこから「自治の力」が生まれてくるのではないか。
 最後に謝辞を記しておきたい。本書は月刊誌『monthly 信用金庫』での連載がベースになっている。執筆機会をつくって下さった編集者・森山佳代さんの入稿時の的確なコメントはいつも励みになった。学芸出版社の宮本裕美さん、山口祐加さんはこの連載をうまく「リミックス」して下さった。また最終章に関しては池上惇先生(京都大学名誉教授)から多くの示唆を受けている。
さらにエアランゲン市のウテ・クリアー(Frau Ute Klier)さんには統計類・公式データなどを揃える時にお世話になった。最後に何かと応援してくれている妻・アンドレアにも感謝したい。
2016年7月
ドイツ・エアランゲンにて 高松平藏