まちで闘う方法論
自己成長なくして、地域再生なし

木下 斉 著

はじめに


1998年、私は16歳の時に早稲田商店会による地域活性化活動に参加しました。

その時に「地域活性化」なるものに参加していると標榜する早稲田の学生は、私を入れても数人しかいませんでした。高校生なんて皆無。しかし現在は、実に驚くほど多くの10代、20代の若者たちが、全国各地の地域活性化に関わるようになっています。

本書は、地域で新たに挑戦する方々に向けて書いた本です。

私が地域活性化に取り組み始めた頃は、成功事例や地域政策に関する解説本はありました。しかし、地域活性化に取り組んでいる人が、どう活動を企画し、どう問題と向き合い、どう事業を作って飯をくっているのか、といったような情報は全くありませんでした。

そのため常に試行錯誤してきました。まち会社の経営に失敗したり、成功事例と持て囃されて浮かれたり、取り組みが補助金漬けになって衰退したり、と数多くの失敗を繰り返しました。

これまでを振り返り、18年前の自分に何を伝えるかを考えました。それは下記の3つです。

(1)どのような考え方を持って、地域で取り組めばよいか。

(2)どのような活動や事業を経験していけばよいか。

(3) どのような技術を習得すればよいか。

これに従い、本書は「思考」「実践」「技術」という3つのフレームワークに沿った構成になっています。成果を上げた事例だけでなく、失敗した事例も紹介しました。また、推薦図書も多く紹介しています。

全体に一貫しているのは、地域活性化とは「稼ぐこと」であり、地域活性化を牽引する人材というのは「地域を稼げるようにできる人材」であるということです。

一方で、そのような地域で「稼ぎ」を作り出す取り組みは、残念ながら未だ地域活性化のスタンダードからはかけ離れています。地域活性化を謳う取り組みのほとんどは税金を使い、地域に良さそうな非効率なことを繰り返し、誰も責任を持たない。結果、今も地域は衰退をしています。

江戸時代の後期、人口縮小で悩む北関東から東北などの600にも上る農村の経済と財政を再生した、二宮尊徳が残した言葉に「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」というものがあります。まさしく、現代の地域活性化にも必要なことです。我々は正しい道徳心を持ちつつ、併せて厳しい経済とも向き合って実践をしなくてはなりません。

しかし、地域で「稼ぐ」新たな事業を立ち上げる時には、時に地域の一部から反発を受けたり、仲間から裏切られることも出てきます。しかし、それでも自ら身銭を切って投資し、事業を通じて成果を上げなくてはならない、闘うべき時があります。

闘うとは別にまちの人と闘うということではなく、ある時は過去の常識と闘い、ある時は法律制度と闘い、ある時は既存組織の壁と闘い、ある時は事業と闘い、そして、常に心が折れそうになる自分と闘うことを指しています。

日々の闘いで折れず、自分を成長させながら、地域での取り組みを広げていく、着実な一歩一歩の積み上げしかありません。逆に言えば、そのように日々の積み上げによる自分の成長なくして、地域の再生などは不可能であると思っています。

だからこそ、適切な「まちで闘う方法論」が必要なのです。

一介の高校生がまちに飛び込み、地域での活動で奮闘し、そして事業に挑戦しながらも失敗し、それでも再び挑戦をする。そんな18年間のプロセスが、多少でも皆様のお役に立てば幸いです。