自治体文化政策
まち創生の現場から

あとがき

 2007(平成19)年4月、初めて京都市の文化担当に着任したときに思ったのは、文化政策を勉強するのに適当な本があまりないということであった。いろいろと文献はあるものの、これを読めばひと通りの知識が得られるものはなかった。また、計画の策定や事業の企画に当たって、そのつど過去の書類を引っ張り出して経過を振り返らなければならないことが、非効率であることも感じていた
 それらが相まって、本書執筆への動機となった。しかし、完成まではいばらの道であった。私が文化担当に長く在籍する間に、京響や京都会館、美術館の新しい展開のほか、計画、新規事業などの立案、新しい文化財制度の創設などに関与する機会も多くなった。一定の蓄積は出来たものの、外国のデータの収集や国ごとに異なる統計を統一的に整理することはたいへんであった。
 私は自治体の職員であり、組織に属しているので、その枠を大幅に外すことはできないが、かといって公式発表だけを書いたのでは、行政報告書になってしまう。時折あるような「この本の内容は私見に属するもので、所属する組織とは何の関係もありません」という言い訳も、私の現在のポストでは自己分裂以外の何ものでもない。
 腐心の甲斐あって、本書の内容は、京都市の仕事とも矛盾のないものとなった。もちろん、組織の仕事であるので、異なる見方や考え方の上司や同僚との議論のなかで、京都市としての方向性が見出されることになる。方針は、市民やそれを代表する議会との調整や議論を経て、決定されることも論をまたない。
 本書を刊行するにあたって、大勢の人たちにお世話になった。京都は言うに及ばす全国、あるいは海外も含めて、文化芸術に携わっている人びとから多くを学ばせていただいた。芸術家のほか、文化施設の関係者、文化政策や文化経済などの専門家、これまで一緒に仕事をしてきた歴代の上司・同僚、京都市の事業を担ってもらっている団体や企業の関係者など、枚挙にいとまがない。多くの方に写真の提供もいただいた。そうした方々との出会いがあってこそ、本書は誕生した。
 それらの方々に加えて、一緒に仕事をしている京都市の文化・文化財の担当や執筆中の私を温かく見守ってくれた家族には、感謝の気持ちでいっぱいである。最後になったが、本書の出版を引き受けていただいた学芸出版社の前田裕資さんと山口祐加さんには、たいへんお世話になった。記してお礼としたい。
>2015年11月23日 平竹 耕三