アジア・アフリカの都市コミュニティ

「手づくりのまち」の形成論理とエンパワメントの実践

おわりに

 衛生、貧困、犯罪…本書でとりあげたインフォーマル市街地はまた、こうした深刻な問題を多く抱えていることも看過しえない事実である。しかしながら、そのような状況に置かれながらも人々は自らの居住環境を「手づくり」で改善しようとしていた。次々と高層のオフィスや住宅が建設されるアジア・アフリカの現代都市において、打ち捨てられたかのようなインフォーマル市街地は、このようなエネルギーに溢れた場所なのである。本書をきっかけとして、「手づくりのまち」に多くの目が向かうことを期待したい。

 一方で我が身を振り返ってみたい。私たちはかくも真摯に自らの居住環境と向き合っているだろうか。「手づくりのまち」を訪ねると、当たり前のことながら、忘れてしまいがちな、自らの居住環境、そしてそれを形成するコミュニティに対する姿勢を再認識させられる。本書を通じて改めて自らのコミュニティを振り返っていただければとも思う。

 本書は、都市計画や建築の分野に身を置きながらも、型から外れたインフォーマル市街地にこだわりフィールドワークを実践してきた若手研究者と、その指導を長年にわたっておこなってきた城所哲夫准教授の旗振りによって、刊行することとなったものである。本書のいずれの論考も「手づくりのまち」の息づかいが感じられる迫力のあるものとなった。しかしながら、本書でとりあげたのは、ごく限られた「手づくりのまち」の事例であり、かつ、「手づくりのまち」の営みは終わることのないプロセスである。「手づくりのまち」を引き続き追いながら明日の都市への地平を拓く道を見出したい。

 最後にはなったが、学芸出版社の前田裕資氏と神谷彬大氏の叱咤激励がなければ本書を刊行することはできなかった。編者・著者を代表して感謝の意を表させていただく次第である。

 なお、本書の刊行はJSPS科研費「研究成果公開促進費」15HP5211の助成を受けたものである。

2015年11月
志摩憲寿 柏崎梢