図説 都市空間の構想力


あとがき─都市の作品としての都市デザイナーへ


 この都市は誰の作品だろうか。本書を貫くのは、「都市は誰かの作品ではない」が、あえて言えば「都市は様々な時代の様々な人々の意図、企図の蓄積が生み出す共同作品である」という見方であった。したがって私たちの眼に映る都市空間は多様な物語に満ちている。都市デザインは、そうした都市空間の物語を丁寧に読み解き、その続きを描く行為に他ならない。都市デザイナーには、共同作品の作者の一人として他の作者の意図や企図にどう応答したのかが常に問われている。本書はその応答のためのヒント、特に都市空間が発するメッセージを聞き逃さずに感得するための視点を、「都市空間の構想力」という概念を用いて説明してきた。とはいえ、あくまで東京大学都市デザイン研究室がご縁を頂いた都市、まちで見出された現象を整理したに過ぎない。読者の方々一人ひとりが、本書を閉じた後に、それぞれの都市を見つめ直すところから、全てははじまることになる。その結果として見出されるそれぞれの都市ならではの構想力は、その見出されるプロセスも含めて、個々の都市空間、建築空間を情感豊かなものにしてくれるはずだ。志のある建築家やランドスケープアーキテクト、都市計画家には、本書で図解してきた都市空間の構想力を、各自の建築やランドスケープ、都市の計画や設計の際の手がかりとして直接活かしてほしい。同時に、より多くの人に、都市空間の構想力自体を都市から見出すプロセスに参画してほしい。
 しかし、一方で「都市は誰の作品か」ではなく、「都市デザイナーは誰の作品か」と問うことの方が、この構想力の本質に迫るように思える。本書を通じて私たちなりに導き出した答えは「都市デザイナーは都市の作品である」ということである。私たちは人生のどこかの時点で「都市」に憧れ、魅了されて都市デザイナーを志し、人生を通じて生活者として様々な「都市」で長い時間を過ごし、訪問者として(そして専門家として)多様性に満ちた「都市」に大きな好奇心と問題意識を持って向き合う中で、どのような都市空間があり得るのか、いや、どのような都市空間があるべきなのかを構想する力を育んできた。私たちが「都市空間の構想力」と呼ぶものは、実際は私たちなりの都市の見方のことであるが、それは都市自体から与えられてきたものではないだろうか。私たち自身が都市に育まれてきたのである。「都市空間の構想力」とは、都市デザイナーを生み出す力のことでもある。都市デザイナーは、都市は誰かの作品ではないということに留まらず、自分自身が都市の作品の一つであるということを自覚してはじめて、都市に対して謙虚になれる。そして、「都市は様々な時代の様々な人々の意図、企図の蓄積が生み出す共同作品である」という見方が、本当に自分のものになるのである。
 私たちは本書を通じて、私たちを育ててくれた情感豊かな都市空間への感謝を表現したつもりである。そして、これからもこの眼の前に広がる都市空間が、都市に憧れ、魅せられた都市デザイナーを次々と生み出す母胎であってほしいと願っているし、そのための努力を惜しみたくないと考えている。
中島直人