なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか


はじめに

 ドイツを列車や車で走っていると、あちこちに風車が立っているのが見える。大きな羽を豪快に回す風車が、点々と地平線まで続いている様子は壮観だ。その合間にソーラーパネルを載せた住宅があり、バイオマス装置が目に入る。再生可能エネルギーはすっかり日常の風景になった。
 なぜドイツではエネルギーシフトが進むのだろうか。エネルギーシフトは、国と市民が求める未来であり、環境だけでなく経済発展に見合うためである。
 しかし、ドイツの脱原発や再生可能エネルギーの推進は、一朝一夕に実現したわけではない。1986年のチェルノブイリ原発事故が大きなきっかけとなった。ドイツの食べ物や環境を汚染し、人々を恐怖に陥れた。その後、全国各地で反原発デモが開かれ、政権にも影響を及ぼした。特に2000年の再生可能エネルギー法により、固定価格での買い取り制度(FIT制)が導入されたのは画期的だった。20年間全量買い取りが保証され、自家使用分が差し引かれることもない。市民や学校がソーラーパネルを屋根に設置し、農家がバイオマスを導入し、エネルギー協同組合が風力発電や地域暖房をつくった。当初、設備容量の半数は個人や農家が占めていたが、これは他国では例を見ない。
 再生可能エネルギーがここまで伸びたのは、安全なエネルギーを求める人々の意識だけでなく、投資が確実に報われるように保証されているからである。法的枠組みを整え、国民を巻き込んできた結果のうえに、現在がある。エネルギーシフトは政府レベルの動きでなく、ローカルレベルでの活動なのである。
 日本では「原発は経済のために必要」という声が根強いと聞く。働き盛りのビジネスマンが主張するのはある程度理解できるが、20歳前後の若者でも原発は必要と信じている人が多いことに驚いた。原発を動かせば景気がよくなり、正規雇用され、よい生活ができるという論理である。再生可能エネルギーは不安定だが、原発は安いという刷り込みも根強い。
 脱原発を決め、再生可能エネルギーを推進したからといってドイツが経済的に弱くなったわけではない。まさにその反対で、地域の価値創造や雇用が生まれている。本著では、ドイツがどのように再生可能エネルギーを推進しているのか、北ドイツの具体例を通してみていきたい。なぜ市民が再生可能エネルギーを支持しているのか。エネルギー政策の課題や法的枠組み、歴史的背景も紹介する。
 ドイツで実現したことが、日本では本当に不可能なのか。ドイツの挑戦が、少しでもみなさんの参考になれば幸甚である。

2015年5月 ハノーファーにて 田口理穂