なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか


おわりに

 日本とドイツは同じ敗戦国で、戦後大きな復興を果たし、技術力が高く、職人仕事に秀でているなど共通点がいくつもある。しかし社会全体をみるとかなり違っている。ドイツでは政府のいうことを疑ってかかり、デモがよくあり、人々は家族との時間や自分の生活を大事にする。日本は長いものにまかれ、従順で、労働時間が長い。
 ドイツに1996年から住み、いろんな人と話をし、この違いはどこからくるのかと考えた。まず日本人は時間がないということがあるだろう。ドイツに受験はなく、授業は高校生でも昼過ぎに終わるのが普通である。厳しいクラブ活動もない。働き始めても年間30日の有給休暇を全日消化し、残業も少ないため、趣味やボランティアなど自分の興味を伸ばす時間がある。そしてナチス時代の教訓がある。「市民は何も知らなかった、政府のいうことに従っていただけ」という言い訳を二度としないよう、教育の中で過去の過ちについて学び、自分の頭で考える訓練をしている。
 だから原発事故を見て、市民は脱原発を求め、再生可能エネルギー推進のために行動を始めた。エネルギーシフトは下からの運動であり、それが政府を動かしたのである。ドイツのエネルギー政策は政権が変わるたびに、方針が右往左往してきたが、目標を定め着実に前進している。
 ドイツの試みをすべて日本にあてはめることはできない。しかし、どうしてここまでドイツで再生可能エネルギーが伸びたのかを知ることは、日本の人々にとっても大いに参考になる。特に自治体と市民が一体になった取り組みは多岐にわたり、応用できるものがありそうだ。エネルギーの供給と消費について意識的になることが、すべての始まりとなる。どういう世界に住みたいのか、その答えは私たちの手にある。
 最後に、快くお話を聞かせてくださったドイツの方々、原稿の遅れに付き合ってくださった学芸出版社の中木保代さんに心から感謝したい。安心できるエネルギー供給を目指して地道な活動を続けている人たちと話をするのは学びが多く、感嘆することがいつもあった。そして拙著を読んでくださったみなさまにとって、この本が何かを考えるきっかけになれば、この上ない喜びである。

希望と感謝をこめて  田口理穂