図説 わかる測量


はじめに



 建設工学系や環境工学系等の分野で測量学を学ぶ皆さんに「測量ってなに」と聞けば、工事現場や道路で赤白の色の付いた棒を持って立ち、その近くで器械をのぞいている光景を思い浮かべるでしょう。しかし、その先は何をしているのかよくわからない、これが一般的ではないでしょうか。
 そこで、日常生活から少し考えてみましょう。自動車に装備されたカーナビゲーションによる目的地への走路検索には、最先端の計測技術が駆使されています。また、旅行などで往来が便利になった瀬戸内海に架かる瀬戸大橋や、津軽海峡をくぐる青函トンネル等の大型構造物の建設、都市の地下街整備等においても、計画・設計・工事に高度な測量技術が活かされています。
 さらにインターネット検索でよく見る地図、地震や津波、台風や集中豪雨による山地崩壊、河川氾濫に備えたハザードマップの作成にも、航空測量やGISなどの最新測量技術が用いられています。
 近年の計測技術の進歩はめざましく、測量分野もボタン1つで角度や距離の測定、さらには宇宙から正確な位置が求まるほどに大きく様変わりしてきました。しかしながら、古くからの測量技術が廃れたわけではありません。現場における詳細で高精度な地図が求められる測量には、人の目と手を用いた従来の測量手法が欠かせません。
 本書は、初めて測量学を学ぶ人が、社会における測量の役割を理解し、実務に合わせた最新計測技術を用いた測量から地図の作成、さらには測量成果の運用までの基礎を学習するための教本です。学ぶ者、指導する者双方が「わかりやすい」を主眼としてまとめました。
 講義の配分は、1章から7章までを測量学の基礎として、座学と実習を合わせて45コマ(1コマ90分)、新しい学問として空間情報工学に属する8章から11章までは15コマを目安としてまとめました。なお、測量学における基礎数学として重要な最小二乗法については、付録で解説しています。これは、測量学を初めて学ぶ者が、測量という学問のイメージができていない状況で学ぶには少し難解であると考え、指導者が必要と考えられるタイミングで指導できるように考慮しました。
 また、学門として古くからの測量方法にも触れながら、現在の最新技術も多く取り入れて、国家資格の測量士補資格者として実社会で十分力を発揮できるような構成にしています。
 本書の著者は、研究部門や測量現場において、40余年にわたり空間情報技術者として基準点測量や地図の作成等に携わるとともに、さらに国立大学等の非常勤講師として座学や測量学実習の指導をおこなってきました。本書は、その経験を活かして、初めて測量を学ぶ者が、現在の測量分野全体の基礎を理解できるようにまとめた教本です。測量を学門として学び、さらには建設・環境・防災・行政等の現場で、それを実践されることを皆さんに期待しています。
 
10月1日
著者一同