産業観光の手法
企業と地域をどう活性化するか

あとがき

 本書の原点は、2001年に愛知県名古屋市で開催された「全国産業観光サミット」である。名古屋での取り組みは、全国の産業観光のその後の推進の大きなきっかけとなるものであった。
 日本観光振興協会では、これらの動きを受けて、2004年、各地で産業観光に取り組む自治体・企業・地域推進協議会などの連携と経験交流を促進するために「全国産業観光推進協議会」を設立した。さらに2006年には、産業観光の戦略的位置づけや方向性、事業モデルの確立等を目的として「産業観光推進会議」(座長:福川伸次氏(財団法人機械産業記念事業財団会長(当時)、現学校法人東洋大学理事長))を設立した。推進会議では、以後、4度にわたる研究活動を展開し、産業観光が抱えるさまざまな課題についての検討を重ね、そのつど報告書(提言書)を取りまとめてきた。
 2006年に取りまとめた第1次報告書『産業観光が地域の未来を拓く』では、各地で取り組みが進んできた産業観光の実態を総合的に捉え、その実態に即した共通の課題や支援策等についての検討結果を取りまとめた。
 2008年の第2次報告書『産業観光とまちづくり・まちづかい』では、産業観光が個々の企業・事業所や工場地帯などの限られたエリアではなく、地域全体に波及効果がうまれるよう、「まちづくり」という観点からの取り組み事例の分析などを通じた手法等の検討結果を取りまとめた。
 続く2010年の第3次報告書『産業観光ビジネスモデルの手法』では、産業観光それ自体が企業の事業として自立できるような、持続性をもった事業モデル(ビジネスモデル)のあり方についての検討とその結果の取りまとめを行った。
 続く第4次活動は、2012年以降、これまでの3次にわたる活動成果を踏まえ、産業観光のさらなる推進を図るための新たな課題等を整理した。その際、産業観光が新たなブームとなり、かつ顧客ニーズや行動がますます多様化するなか、改めて顧客ニーズや活動実態などを捉える大規模アンケート調査を実施し、これらの成果を報告書としてとりまとめた(『地域活性化と産業観光の手法』2014年3月)。
 本書は、これら過去4次にわたる活動成果を再整理し、今後の産業観光の推進を図るための総合的な体系を構築するとともに、各地で産業観光に取り組まれる方々の参考書として取りまとめたものである。
 本書の刊行が、今後の産業観光のさらなる展開の大きな一里塚となることを願うものである。
 本書の刊行にあたっては、4期の長期にわたる産業観光推進会議のとりまとめ役・座長として格別のご指導をいただいた福川伸次さん、座長代理として理論的な側面から適切かつ厳しいご指導をいただいた望月輝彦さん、産業観光の提唱者でもあり、2001年の全国産業観光サミット(のちフォーラム)以来、常に産業観光推進の中心となってご指導をいただいている須田寛さんをはじめ、過去4次にわたる推進会議の委員としてご尽力を賜った皆様方に深く感謝し、御礼を申し上げたい。
 また、産業観光の推進を政策的な側面からご支援いただき、推進会議でも常にオブザーバーとしてご助言をいただいた経済産業省、観光庁、総務省、文化庁など関係省庁の皆様にも厚く御礼を申し上げたい。
 さらに、4次にわたる研究会活動を事務局として支え、全国の事例調査や書面調査結果等の分析から取りまとめに多大な協力をしていただいた、日本観光振興協会の見並理事長をはじめ職員の皆さん、とりわけ総合調査研究所の皆さんには深く感謝し御礼を申し上げたい。
 本書の刊行について、学芸出版の前田裕資さんには、本書の構成から読者目線からみた多くの有益なご指摘をいただき、また遅延しがちな執筆を辛抱強く支えていただいた。ここに御礼を申し上げたい。
(文責 日本観光振興協会常務理事・総合調査研究所長 丁野 朗)