100%再生可能へ!
ドイツの市民エネルギー企業

はじめに


 2012年7月1日、日本でも再生可能エネルギー電力の固定価格買取制度(FIT)が始まった。それ以来、各地で大型のメガソーラーなどが建設されるニュースが飛び交い、3・11を契機にした脱原発の議論と合わせて、再生可能エネルギー推進の是非について国民的な議論が進められるようになった。2000年にドイツでFITが施行され、それ以降、一貫してこの制度を日本に紹介してきた筆者としては、一部の方にしか関心を持ってもらえなかった10年前の社会状況と現在では、時代が確実に移り変わっていることを感じ、嬉しく思っている。

 しかし、再生可能エネルギーについて国民に広く知られるようにはなったものの、日本ではそれを巡る議論の中身はまだ深くはない。偏った見方、一面だけを取り上げる議論、表面的な考察、事実誤認の見解などがある。たとえば、再生可能エネルギーは高価だ、電気料金が高くなる、安定供給できない、貿易赤字が拡大している状況は再生可能エネルギーなどでは改善しないから原発をいち早く再稼働させるべきだ、ドイツのFITは失敗した、ドイツは脱原発してもフランスの原発から電力を買っているなどなど。本書の目的は、それらの意見に直接回答することではない。

 ドイツでも、FIT開始当初から現在に至るまで、そうした偏った表面的で事実誤認の意見や議論は存在し続けている。2013年9月のドイツ連邦議会総選挙の際、こうした意見を代表し、選挙戦を戦った政党も存在した。それは自由民主党(FDP)で、票を大きく失い得票率が5%に満たなかったため、連立政権の座から野党転落の事態すら飛び越して、連邦議会での議席確保もできない、という状態まで失墜してしまった。経済系の新聞などの論調とは裏腹に、どうやらドイツの大多数の国民は、そうした偏った表面的な意見に耳を貸さなくなったようである。

 本書では、日本と比較して10年、いや15〜20年近く、再生可能エネルギーに関するアドヴァンテージを持つドイツで、再生可能エネルギーの議論と実践が、地域や国の未来を考える上で一段と深まり広がっている状況と、その議論と実践の本質について紹介したい。そのポイントは、地域が「エネルギーヴェンデ」(ヴェンデは大転換を意味する)からの果実を得るには、地域のお金と市民が主体となり、経済的事業として実践していく必要があるという点だ。2010年に第二次メルケル政権は、2050年までの脱原子力・脱化石のロードマップを採択したが、本書を読まれた読者には、そうした国策が生まれた背景も伝わるだろう。

 筆者らの前著にあたる『100%再生可能へ!欧州のエネルギー自立地域』(学芸出版社、2012)では、パイオニアである地域のエネルギー自立への取り組みの姿を描いた。今回はドイツで、そうした地域での取り組みを経済活動として具体的に担っている事業体に焦点を当てた。それは、市民株式会社、市民エネルギー組合、自治体エネルギー公社などであるが、それぞれの法人形態とその特徴や意味、背景を、代表的な事例を通して解説している。また、各事業体が現在の市場や政策という枠組みの中で、どのようなビジネスモデルを展開しているのかについても言及する。これらを読者が読み解かれ、抽象化されれば、日本での再生可能エネルギー事業の在り方やエネルギーヴェンデの社会的・経済的な意味について、より広く、より深い考察につながるはずである。

 日本でもFITが始まり、まずは一部の経済界や投資家が動いている。ドイツでも過去に同じようなプロセスがあった。その後、ドイツではじわじわと市民が動き始め、その運動は加速・拡大し、 再生可能エネルギーの急速な発展の原動力となった。日本でも迅速にこのプロセスが始まることを期待し、その取り組みの一考に本書が役立つなら幸いである。

2014年2月 ドイツ・フライブルクにて
著者を代表して 村上敦