若手知事・市長が政治を変える
未来政治塾講義T

はじめに


 私たちの暮らしも経済も、政治の影響を受けています。にもかかわらず、多くの人たちにとって、政治は自分たちに「遠い」存在です。自分に無関係だと思っているから投票にもなかなか行かない。政治家に立候補して投票をしてもらう立場となると「もっと遠い」。親が政治家で地盤がある、政党や団体に所属していて組織基盤がある、経済的余裕がでてきたので「議員でも」してみようか。そういう一部の限られた人が政治に向かう。その結果、私たちの代表であるはずの政治家に、普通のサラリーマンや子育て中の主婦、女性、若い世代が少なく、多様な民意の代表者となっていないのが、日本の政治の現状です。
 今、日本の政治は大きな曲がり角にあります。2011年3月11日に起きた東日本大震災の後、日本中が深刻な政治不信に覆われました。そして、2012年12月の衆議院議員選挙は、3・11後の最初の国政選挙でありながら、制度疲労を起こした日本社会の本格的な変革につながる結果にはなりませんでした。
 これからの日本社会再生のキー概念は、「全員参加型」の社会づくりと「地域社会」の活性化だと私は考えています。女性も若者も、障がいを持つ人も高齢者も、それぞれの意欲と能力を活かし、それぞれの居場所をつくり、仕事や社会活動での参加の機会を増やす。未来の方向性を共有しながら、日々の暮らしを背負う女性ならではの生活者の視点、未来に夢を託す若者の視点、大都市にはない地方の視点等を補完しながら、地域の環境、経済、文化、社会の自律を目指した地方自治が今、求められています。
 日本の地方には潜在的な力が潜んでいます。この潜在的な力を「自覚化」し「見える化」して、地域に元気を吹き込むためには、若者、女性を含めて、「政治家の多様化」が求められています。とはいえ、地盤も看板も鞄もない人は、高い志を持っていても、なかなか立候補することができない。選挙のしくみは難解で、お金がかかります。現状への危機感や問題意識をどうやって政策として組み立てるのか、どうやって政策を訴えるのかもわからない。政治の世界への新規参入の壁は、依然として高いと言わざるをえません。
 そこで、私たちは、さまざまな地域や職種、背景を持つ人たちが政治や行政を学び、選挙のしくみを知ることで、政治の世界への新規参入を促す場をつくりたいと考え、2012年4月に「未来政治塾」を開講しました。
 未来政治塾は、いわば政治素人が政治家に飛び出すための社会的しかけです。この塾は特定の国政政党とつながる政治運動のグループではありません。政治理念や政治手法も「多様性」をキーワードに、1人でも多くの方たちに政治や行政を「近く」感じていただくための場です。
 2012年度の未来政治塾では、通学塾生220名、オンライン塾生450名の皆さんとともに、12回にわたる講義を行いました。各分野の最前線でご活躍しておられる専門家の方たち、そして実際に政治を担っている市長、知事など政治家の方たちにご講義いただき、ホットな対話と討論を展開しました。ご多忙のところ、このような小さな塾にご参加いただいた講師の皆さまに心から感謝申し上げます。
 本書は、2012年度に開講しました未来政治塾の講義の一部を書籍化したものです。講義の内容を塾生以外にも、広く政治家や行政職員を志す方々に読んでいただけるよう、『若手知事・市長が政治を変える 未来政治塾講義T』『地方から政治を変える 未来政治塾講義U』の二分冊として収録いたしました。講義を開講しました2012年から政治の情勢も大きく変わりましたが、本書はあくまで当時の講義の記録であることを、はじめにお断りしておきます。そして、政権交代後の今だからこそ、地域に根ざし、自然を大切にし、若者、女性、生活者といった行政サービスの需要側の視点を重視する立場は、一層重要になるものと信じております。
 未来政治塾で学ばれた方、また本書を読んで下さった方の中から、地方自治の担い手や国政を目指すという方が現れることを期待しています。そして一人でも多くの方が、等身大の感覚で、日本の地域再生の現場で活躍していただきたいと強く願っています。

未来政治塾塾長、滋賀県知事 嘉田由紀子