過疎地域の戦略
〜新たな地域社会づくりの仕組みと技術〜


おわりに


 都市部の人々にとっては、過疎地域は生活の厳しい大変な場所であり、今さらなぜ持続を目指すのかというネガティブな思いがわくかも知れない。本書では、過疎地域の課題の面を取り上げて論じているため、本書の読者もそのように感じたかも知れない。しかしながら、住みにくさはどのような地域にもあり、様々な課題を抱えながらも、人はそれぞれの場所で健やかに暮らしているのである。

 地域の住みにくさを引き起こす問題に対しては、様々な対策を講じて、減らす努力が続けられている。ただ、過疎地域については、問題の構造が異なるにもかかわらず、都市部で考え、都市の目で見た方策を適用しようとするために、しばしば適切な課題解決の手段になりえずにきたという側面もあろう。そこで、過疎の現地から問題を改めてとらえ直し、具体的な課題を通して問題解決の戦略を体系的に整理しようと試みたのが本書である。そしてそれらの課題には、人口減少、高齢化が大きくついてまわる。これらの現象は今後、あるいはすでに、都市部においても発生する問題であり、これから顕著になる都市の問題の解決の一端に私たちの試みが寄与できるのではないかと思っている。

 このような意味で、過疎地域の持続的な社会づくりは、都市にとっても他人事ではないはずである。さらに、過疎地域あるいは地方が活力をもって存在し続けることは、都市の住民ひいては国家的な見地からも重要である。過疎地域あるいは地方は自然が豊かで資源の豊富な地域であり、食糧の生産供給地域であることはよく言われていることである。それだけではなく、重要無形民俗文化財を有する市町村では過疎地域が全体の55%を占めているように(総務省)、古くから人が住み、多くの伝統文化が伝えられているのもこのような地域である。また、限られた大都市周辺に人や活動や機能が集中することは、自然災害、交通・通信等の機能障害、環境汚染、国防・テロ対策などの観点からも決して望ましいことではない。文化の多様性、経済活動や居住の分散性こそが、国の品格や強靱性を支えるものである。

 過密都市の問題を扱う学問は種々存在するのに対し、地方の問題を対象とするものは不十分であり、少ない人口、低密度、人口減少・高齢化に直面している地方自治体が身近に多数存在する鳥取大学こそが、自治体や住民と一緒になってこの問題に立ち向かい、新たな学問を打ち立てていかなければならないと考えた。そのような発想のもとに、全学横断的に教員の参加を得て「鳥取大学持続的過疎社会形成研究プロジェクト」を立ち上げ、地域の現実の中に課題を求め、具体的に解決の道を探ってきた。平成19年度からは5年間の予定で文部科学省から特別経費を受けるとともに、大学からも助成を得て事業を進めてきた。その結果、このような形で成果を世に問うことができたことは、この上ない喜びである。

 その間、鳥取大学においては、学長をはじめ地域連携担当理事、事務関係者その他多くの関係者の方々の理解と支援に支えられてきた。地元の自治体の関係者にも大変お世話になった。特に、鳥取県、鳥取市、境港市、日南町、琴浦町、南部町、八頭町、智頭町、三朝町、江府町、日野町の行政関係者および住民の方々には、多大なご協力を賜った。このような地域との連携なしには本書を成すことはできなかった。プロジェクトメンバー一同、衷心より謝意を表したい。

 本書の出版にあたり、学芸出版社の前田裕資氏には企画の段階からたいへんお世話になった。また編集の段階においては同社の岩切江津子氏にも参画いただき、細部にわたる丁寧な点検、ご意見を通して改善が重ねられた。お二人のご尽力に感謝申し上げます。

細井由彦