カフェという場のつくり方
自分らしい起業のススメ

はじめに

 今から10年ほど前、2000年前後に、日本ではカフェブームが起こりました。
 この頃、大都市の都心部を中心に、これまでの喫茶店とは違った、センスや居心地の良いカフェが数多く登場しました。雑誌ではカフェ特集が組まれ、センスの良いカフェを紹介する本が数多く出版され、料理や製菓の専門学校にはカフェコースが新設されました。そしてその後、カフェは街中から郊外へと出店エリアを広げ、その数をどんどん増やしていきました。
 しかし数年を経ずして、ブームは下火になっていきました。店舗数が増え、競争が激化したこと、ブーム当初にあった目新しさが薄れてきたことがその理由だと思われますが、その後のコーヒー豆などの原料価格の高騰、年々進行するデフレ化傾向、2008年の世界同時不況、さらに2011年に起こった東日本大震災などの影響により、カフェ経営をめぐる状況は、年々厳しさを増してきています。周りを見ていても、閉店してしまうお店は数知れずあります。
 そんな厳しい状況の中ですが、カフェをやりたいという人は、今でもいっぱいいます。そして多くの人が、ビジネスというよりはむしろ、自分らしい生き方の選択として、カフェを志向しています。彼らが模索しているのは、カフェを開業して成功店になるための方法論というよりは、むしろ自分の美意識や価値観にぴったりと沿ったカフェを、いくらかのお客さんに支えられながら、無理なく続けていくための方法論です。

 僕は2001年に、大阪・キタの堂山町という繁華街で、「Common Bar SINGLES」という日替わりマスター制のバーを始めました。ここはもともと僕が常連として通っていた「Bar SINGLES」が閉店した後、その場所を維持するために、40人のマスターを集めて立ち上げたものです。2004年には、大阪・キタの中崎町という町の一角で、「common cafe(コモンカフェ)」を始めました。ここでは、カフェとしての営業をベースに置きつつ、演劇公演、音楽ライブ、映像上映会、展覧会、トークイベント、朗読会、セミナー、ワークショップといった、多彩な文化的イベントを日々開催しています。
 かつて僕は、OMS(扇町ミュージアムスクエア)という、小劇場、ミニシアター、雑貨店、カフェレストラン、ギャラリーを備えた複合文化施設の仕事をしていました。エッジの効いた文化情報発信を行う場でしたが、2003年に施設の老朽化のために閉館しました。その閉館後に、個人レベルで作れるOMSを、と立ち上げたのが、「common cafe」です。この空間では、さまざまな表現活動に関心を持つ日替わり店主が、日々自分たちのやりたいことを試しています。
 また僕は、コモンカフェから派生して生まれた「六甲山カフェ」にも関わっています。これは、六甲山の麓にある茶屋の一角でカフェを営業するというもので、イベントや日曜カフェとして始まり、今では数組の店主が週末ごとに入れ替わるシステムで回っています。
 さらに、僕は四天王寺前夕陽丘にある公共施設「クレオ大阪中央」の中に2007年にオープンした「クレオ・チャレンジカフェ」に、立ち上げの頃からアドバイザーとして関わっています。このカフェでは、店主が6ヶ月の期間限定で入居し、カフェ運営の実務経験を積み、将来のカフェ開業に備えています。
 出会いの場所として、表現の実験の場として、また新しいアイデアやプロジェクトを生み出す場として、カフェという空間は、大いなる可能性を持っています。その魅力に惹かれて、僕はもう10年以上もカフェやバーの運営に関わってきました。特に、一軒のお店を複数の人間でシェアするという実験を繰り返してきました。このシステムには、店主たちにとっては、今の仕事を続けながら自分のカフェや表現空間が持てる、また店を運営するスキルを身につけ、ネットワークを広げてから実際に開業につなげることもできるなど、メリットはいろいろあります。
 しかしながら、日替わり店主というシクミでは、“いつ行ってもあの店主がいる”というお客さんの期待に応えることはできません。そして店主が日々入れ替わる中、一定のクオリティを担保し、つねにお客さんに満足いただくことができなければ、街場での存在意義を失ってしまいます。
 本当の意味での「コモンカフェ=みんなで共有するカフェ」とは、どういう形であるべきなのか。僕自身はお店を経営するかたわら、いろんな店に足を運びながら、自問し続けてきました。
 その過程で見えてきたことを、今回一冊の本にまとめてみました。

 この本を通じて、これからの時代のカフェの現実的な可能性や、カフェをやりたい人たちの夢が現実に押し潰されてしまわないための方法論をお伝えできればと思います。ぜひ最後までお付き合いください。