環境コミュニティ大作戦
資源とエネルギーを地域でまかなう

はじめに


環境コミュニティ大作戦が始まる

 明治維新以降の日本の経済成長は、国策と産業の力によるところが大きい。それを支えたのは、実直で勤勉な国民性であり、身近な自然をいつくしむ日本の心であっただろう。しかし、これまでの市民は、国と産業界の追随者(フォロワー)に過ぎなかったのではないだろうか。これまでも市民が主導して、社会や経済を変える動きがなかったとはいわないが、市民主導の流れはまだまだ小さく、大きなうねり(イノベーション)にはなりきれていない。
 そして、地球温暖化や資源・エネルギーの枯渇、本格的な少子高齢化、地球規模での人口爆発と経済不況等の問題が目白押しである。これまで通り、国や産業界のやり方に任せておいていいのだろうか。福島原発の事故とその対応を目の当たりにして、原子力発電を推進してきた国や産業界の信用は失われた。欧米諸国のモノまねに終始し、自らの改革に遅れ、リーダーシップを発揮しきれていない国や、生命の問題を軽視する企業に、国づくりを預けておくわけにはいかない。
 今、期待される動きは、「地域からの変革」である。地域資源を活用し、地域の住民が地元の行政や事業者と連携しながら、環境と経済、社会が統合的に発展する姿を足元で具現化し、それを他地域にも広げ、地域間のネットワークをつくることで国を変えていく、そうしたボトムアップの変革が必要である。
 本書では、特に環境やエネルギーをテーマにした地域づくり・人づくり(環境コミュニティ)を取り上げる。本書は、環境コミュニティが地域を変え、国を変え、世界を変えていく、そうした大作戦の始まりの宣言であり、具体的な作戦の整理と提案であり、実践事例の記録である。

環境コミュニティ力とは

  「地域からの変革」において最も大切なものは環境コミュニティ力だと本書では考えている。これは「環境保全・活用に参加しようとする地域住民や事業者、地域行政等の主体の力と主体間の関係の力」である。
 ここで主体の力とは、環境保全・活用に取り組もうとする意識や意欲などである。関係の力とは、環境保全・活用に係る主体同士のつながりである。関係
の力は社会関係資本(ソーシャルキャピタル)と同義である。個々の力が強くとも、関係の力が強くなければ、力が十分に発揮されることはないだろうから、関係の力が重要である。
 一方、地域づくりの要素はハードウエア、ソフトウエア、ヒューマンウエアに分けて捉えることができる。このうちヒューマンウエアは「環境コミュニティ力」と同義である。ハードウエアとは人工的施設やインフラなど、ソフトウエアは制度や情報・知識などを指す。これらの基盤にあり、地域資源と人間活動をつなぐうえで重要な要素がヒューマンウエアである。
 地域づくりの要素を積み木構造のように捉え、図1に示した。ヒューマンウエア(環境コミュニティ力)がないと、ハードウエアは形をつくることができても活用されない。また、立派なソフトウエアを整備しても利用されないことも多い。環境コミュニティ力は、ハードウエアやソフトウエアを活かす駆動力のようなものであり、環境コミュニティ力こそが環境を守り、地域をつくる人的基盤として最も重要な礎である。
 そして、環境コミュニティ力は、地域活動という実践を通じて、強化されるものである。環境コミュニティ力の活用→地域活動の実践→地域環境力の向上というサイクルが形成されていることが、まさしく持続可能な地域づくりの姿である。

図1 環境コミュニティづくりの積み木構造

本書の構成と狙い

 本書は4部で構成される。
 第T部では、環境・エネルギー問題の解決のために、「環境コミュニティ力」を重視する必要性があることを説明する。このために、東日本大震災で明らかになった現代文明の問題点、環境・エネルギー問題の根幹にある工業化や都市化、国家・産業主導のスタイルの問題点等をややマクロに整理する。また、環境コミュニティ力という概念の位置づけを、環境保全の人づくり・地域づくり、内発的発展論、社会関係資本、持続可能な地域づくりなどといった関連する議論を振り返りながら整理する。
 第T部では、言葉の定義の整理を行うため、やや概念的であり、具体的なところを知りたい読者には読みづらいかも知れない。そうした方は、第U部以降から読んでいただけばよい。
 第U部では、2つの地球温暖化対策、エネルギー自律、資源循環型社会、森林再生という取組み課題ごとに、「環境コミュニティ力」がどう強化され、どのように活かされているかを紹介する。
 ここで、2つの地球温暖化対策とは、温室効果ガスの排出を削減する緩和策(低炭素施策)と、緩和策を最大限とったとしても避けられない気候変動に対する適応策の2つをいう。エネルギー自律では、特に住宅用太陽光発電の普及に関する地域の施策の実態と課題を具体的に取り上げる。資源循環型社会については、エコタウンといった大きな循環圏における課題や生ごみ循環における環境コミュニティ力に配慮した事例等を紹介する。森林再生では、森林が持つ多面的な働きと、その活用方法を整理する。
 第V部は、特定の地域に着目して実施した住民アンケート調査やヒアリング調査をもとに、「環境コミュニティ力」が地域でどのように積み重ねられ、高まっていくか、その過程や今後の展望を紹介する。
 取り上げる地域は、太陽光発電に関する市民共同発電事業が活発で、さらに環境モデル都市として取組みを広げてきている長野県飯田市と、3,000人の町でありながら、環境NPOが4つもあり、住民ボランティアによる生ごみ回収と地域ぐるみで環境保全型農業を進めている福井県池田町である。
 また、環境コミュニティづくりのツールとしても期待されるエコポイントについて、環境コミュニティ力の形成という観点から検討を行った東京都荒川区の事例を紹介する。
 第W部は、環境コミュニティ力の活用や向上を図るための施策や取組みについて、4つの提案を示す。4つの提案とは、@環境コミュニティ力を高めながら環境配慮を促す、A環境コミュニティづくりを協働で進める、B環境コミュニティ力を組み込んだ施策手法を設計する、C環境コミュニティ・ビジネスをおこす、である。

 本書は、地球温暖化、エネルギー、あるいは廃棄物・3R(リデュース・リユース・リサイクル)等に取り組む、行政関係者、企業、NPO関係者等あらゆる人々を対象にしている。環境コミュニティ力を高めることの必要性を否定する人は少ないだろうが、環境コミュニティ力への配慮に手が回らない人、それを軽視してしまっている人は多いことだろう。環境・エネルギー問題に係わる人々と、環境コミュニティ力の必要性とそれを高めてきた日本各地での経験を共有できれば幸いである。