環境コミュニティ大作戦
資源とエネルギーを地域でまかなう

おわりに


 私のライフワークは、持続可能な地域づくり(環境保全と地域活性化が両立する地域づくり)を具現化し、実現し、それを広げることである。誰もが理想郷をつくりたいという夢を描いたことがあるのではないだろうか。そうした理想郷づくりに近い仕事があると気づいたのは、環境省が1980年代後半に手がけた「エコポリス」の計画策定事業である。
 しかし、エコポリス関連事業は、残念ながら1年間で廃止となり、神戸市と滋賀県野洲町で計画が策定されただけであったが、環境問題の解決を地域づくり全体で図ろうとする試みはとても魅力的であった。実際、当時に描かれた計画をみると、現在進められている環境モデル都市や環境未来都市の取組みにも劣らない内容であり、時期尚早であったということだろう。
 その後、都市ではなく農山村を舞台として、環境理想郷を描くエコビレッジ研究会に参加する機会を得て、以降、地域の環境基本計画やエコミュージアムの計画策定、環境イベントの企画等の仕事を得ることができた。環境省の関連では、持続可能な地域づくりに係る調査研究を継続的に受託し、環境面で持続可能な地域づくりの事例調査等を踏まえて、あるべき目標像や実現の方法論を検討した。
 そして、持続可能な地域づくりへの取組みは1990年代に先進的な地域で立ち上がり、2000年代に入り、確実に増えてきた。また、先駆的な地域では取組みの歴史も20年近くとなり、積み重ねの効果も表れているところである。
 さて、持続可能な地域づくりの方向性をまとめた文章として重要なものがいくつかある。その一つが、第三次環境基本計画の重点施策「環境保全の地域づくり・人づくり」の記述である。同計画の記述は決して読みやすいものではないが、地域の環境政策と環境学習を一体として捉え、環境保全・活用と経済、社会の相互作用による発展を描こうとしたことに意義がある。持続可能な地域づくりにおけるヒューマンウエアの重要性を指摘しているのである。
 そして、第三次環境基本計画をフォローする進行管理の指標開発の委託調査で、「環境保全の地域づくり・人づくり」に関して、地域の施策の進行管理を行う指標を開発する委託調査が公募された。筆者は、「地域環境力」(本書でいう環境コミュニティ力)という観点で指標を構築することを提案し、無事に委託を受けることができた。
 「地域環境力」は、平成15年度環境白書及び第三次環境基本計画で取り上げられている。2002年9月20日に開催された中央環境審議会総合政策部会での配付資料「地域環境力創造戦略(案)について」においても「地域環境力」という表現が使用されている。この「地域環境力」という考え方を用いれば、持続可能な地域づくりの本質的な部分を捉えることができると考えたのである。
 この時の委託調査は1年だけであったが、委員会の委員の先生方やこちらのスタッフの関心も高く、楽しく熱心に仕事をすることができた。そのため、委託調査終了後も、「地域環境力(環境コミュニティ力)」をテーマにした個人研究を継続することにし、この本をまとめるに至った。
 この本を書くきっかけは、学芸出版社の中木さんからのメールであった。中木さんは、もっと自分が実践した地域づくりの具体的な事例を楽しく伝えるような本を期待していたと思うが、環境コンサルから大学に職場を変えた私は、最近実施してきた住民アンケートやヒアリングの詳細データを紹介したくてたまらない。できるだけ住民アンケートでは複雑な統計解析の結果を示さずに、わかりやすく解説したつもりなので、ご理解をいただければ幸いである。
 なお、地域力やヒューマンウエアに関する多くの本が既に出版されており、本書ではそれらと差別化する意味でも、筆者が研究の一環として調査をしたデータを用いている。関連する他の図書と合わせて、読んでいただくと相乗的に理解が深まるはずである。
 そして、本書で紹介させていただいた多くの地域にお礼を申し上げたい。特に、長野県飯田市、福井県池田町、東京都荒川区では、アンケートやヒアリングにおいて、多大なご協力をいただいた。本書の整理が今後の地域づくりに役立つものになればと願っている。
 最後に、本書はこれまで共著を6冊ほど書いてきた筆者にとって、初の単著となった。私を励ましてくれた妻・白井純子に感謝を伝えたい。そして、ふるさと静岡県浜松の両親たちに喜んでもらえればなによりである。
2012年3月
白井信雄