マイファーム 荒地からの挑戦
農と人をつなぐビジネスで社会を変える

はじめに


僕がマイファームという会社を始めて5年になる。マイファームは2007年9月に、25歳だった僕と、現在取締役を務める岩崎吉隆さん(当時32歳)の2人で設立した。

マイファームでは、これまで100カ所以上の耕作放棄地を貸し農園や体験農園、契約栽培農場、農業学校へとよみがえらせてきた。

最初に取り組んだ事業「体験農園マイファーム」では、畑仕事の経験がない初心者が、手ぶらで畑に訪れ、スタッフに教わりながら無農薬有機農法での野菜づくりを楽しめる場所をつくった。こうしたサービスが付加されているため、畑を利用するための料金は1区画約15uにつき年間約6〜8万円と、公営の市民農園で同じくらいの大きさの畑を借りるより、やや割高なのだが(市民農園利用料は、おおむね年間1万〜3万円)、あえてこうしている。

しかし、このサービスが今まで市民農園を使えなかった人たち──特に平日は働いているが、本当は子供と畑に行きたい人や、おいしい野菜をつくってみたいという人──の心をつかんでいる。1年間利用してくれた人が、2年目も更新してくれる率は7割程度。途中でやめる人が少ないのも自慢だ。僕らは、こうして自分が食べる野菜を自分でつくる「自産自消」のライフスタイルを少しずつ広げてきた。

このほか、もう一つの主な事業には、2010年から始まった「有機農業専門学校マイファームアカデミー」がある。「体験農園マイファーム」で野菜づくりの面白さに目覚めた人がより深く学ぶ場所として利用するもよし、就農希望者が実践的な知識をつけるために学ぶもよし。eラーニングでの通信講座と、農園で行われる実技講座の両面で、知識・技術を習得できる形にしている。そして、ここで学んだ人たちに就農できる場を提供できるよう、耕作放棄地のコーディネートを行うところまで視野に入れている。

こうした事業を行ってきた僕だが、最近、「なんで西辻さんは農業にこだわるんですか?」と聞かれることが多くなった。その時に答える言葉は「農業が好きだから」なんだが、なぜ好きなのかをもっと突き詰められるといつもぼやけてしまう。農業に恋をした瞬間なんて逆にわかるはずもないので今回、僕は自分の歩んできた人生を書き記すことによって、この本を読んで頂いた人たちがどこかの点で共感してもらい、どこかの線で「その道を私も歩んでみたい!」と思えるのではないかと期待して、本を書くことにした。

本書を読むことで、ある人は「そうだよね、田舎の空気がいいから農業好きなんだよね」、ある人は「農業にはビジネスチャンスがあるから頑張ってみよう!」と思ってもらって、何かに気づいてもらえることを願っている。さらにそこから僕が大切にしている「自産自消」の理念と、そのもっと先を感じてもらうことができれば、もしかして明日には仲間になって農業界に新しい風を吹き込むことになっているかもしれない。今、農業界に必要とされているその「風」を見つける材料・ヒントとしてこの本が役に立ってほしい。

農家の持っている多くの見えない資産、農村がもつ本当の豊かさ、農業がもつ社会的に重要な要素、これらを実践を通して可視化させる作業を、僕たちマイファームはしている。

普段、僕は過去の苦労や困難について語ることはほとんどないが、今回はその過程を記しており、どうやって乗り越えてきたかも書いてあり、折れそうな心も晒しているので、リアルに農業界の現状を見ることができると思う。また僕には、名前「一真」の通り、一つのことにまっすぐという心しか武器はない。丸腰で社会に向き合っていて弱い存在であることも垣間見えて、本書を読んでくださった方に「これくらい私だってできるよ」と感じてもらいたいという想いも秘めている。

そして、マイファームが思い描く「自産自消」のある未来を有言実行の覚悟で書き記し、ぶれない姿を見せることで、農業界の一翼を背負う覚悟のある僕たちに力を貸していただきたいと思っている。

これから、間違いなく農業界は変わる。僕たちが変える。いや、変えないといけない。

2012年3月  西辻一真