地域で守ろう!鉄道・バス


はじめに

 今、日本各地で公共交通の衰退が止まらない。これまで地域の交通を支えてきた鉄道や路線バスの廃止が相次いでいる。
 その大きな要因の一つに、「規制緩和」がある。鉄道は2000年、路線バスは2002年に交通事業者に対する規制緩和が実施され、不採算路線からの撤退は「許可制」から「届出制」に変更された。鉄道事業法の改正による規制緩和が実施された2000年から2006年までの6年間で、476.6qの路線が廃止された。バスは毎年、稚内から鹿児島までの直線距離を超える2000q以上のバス路線が廃止されており、三大都市圏を除いてはバスは非常に不便な乗り物になっている。
 それ以前から、少子高齢化やモータリゼーションの進展、産業の空洞化、不況などにより、地方の公共交通の経営は非常に厳しい状態にあった。そこへこの規制緩和が実施されたことで、公共交通の「空白地域」が生じることになり、市場原理が適用されない過疎地などでは、地域住民の日常生活の「足」を守ることが喫緊の課題になった。
 その反省から、自民党政権下の2007年10月1日に地域公共交通活性化再生法が施行され、協議会を開催して公共交通の存続・活性化に熱心に取り組む自治体には補助金が支給されることになった。これは別の言い方をすれば、事業者任せ、行政任せだけでは公共交通は存続しないことを意味する。
 民主党政権下の2011年4月から施行された「地域公共交通確保維持改善事業―生活交通サバイバル戦略」では、「元気な日本復活特別枠」を含む既定予算の1.4倍に当たる305億円を投入することになり、バリアフリー対策などは充実することになった。だが、欠損補助の対象は、架橋されていない離島航路や航空路、自治体が補助を行わない路線バスや福祉・乗合タクシー(デマンド交通)など、必要最低限の公共交通だけである。地域公共交通活性化再生法で実施されていた試験運行(運航)や増発に対する補助が実施されなくなり、こちらに関しては後退してしまった。鉄道には欠損補助が実施されず、かつ試験運行(運航)や増発に対する補助も廃止された。これに関連するが、「交通基本法案」の国会審議もいまだに始まっていない。
 本書は、以上のような厳しい状況の中で、「地域の足を確保するために、地域は何ができるのか」という観点から、全国各地の住民・NPO・交通事業者・行政による先進的な取組みをレポートし、地域で公共交通を支えるための多様な手法をまとめて紹介することを目的としている。従来、地方の鉄道やバスの衰退の問題が取り上げられる際には、個別事業者の経営問題として議論されることが多かったが、これからは、持続可能な社会をつくるための「地域の公共財」として公共交通を捉えることがますます重要になってくるだろう。
 本書が、この問題に関心を持つ全国の人々に届き、より良い地域の未来につながる一助になれば、これ以上の喜びはない。