いま、都市をつくる仕事
未来を拓くもうひとつの関わり方

おわりに─「都市をつくる仕事」は終わらない


 本書は日本都市計画学会関西支部が20周年を迎えるにあたって設置した、次世代の「都市をつくる仕事」研究会≠ェ約2年半に渡って取り組んできた活動の成果を取りまとめたものである。ゲストの実践の現場に毎回赴くことで臨場感を得ながら、自由でフラットな雰囲気で開催した公開形式での議論の場は、回を重ねるごとに人と人とのつながりをひろげていった。また、これらの活動を通じて形成されたネットワークを活かすことで、多数の方々にアンケートやインタビューの協力が得られ、それらの人たちを間接的につなげることで、これからの都市をつくるムードを育むことができたのではないかと思っている。また、このような活動を企画・実施するなかで「都市をつくる仕事」の魅力や可能性についてそれぞれの立場から考え、議論を重ねてきた。3章「都市の魅力×仕事の可能性」の各論考は、このような活動から得たメンバーの体感に基づくものである。
 当初から活動の到達点が明確に定まっていたわけではない。メンバーのほとんどは、この活動を通じてはじめて出会い、互いにいろいろな影響を与えあいながら、「都市をつくる仕事」の魅力を手さぐりで探していった。ふり返れば、この活動そのものもまた、都市への関わり方をひろげ、私たち自身の仕事のかたちを模索するきっかけになっていたように思う。また同時に、メンバーの間に「都市をつくる仕事」に対する共通の価値観が少しずつ築かれていった。本書を通じて、このような活動のプロセスでメンバーが体感してきた魅力を少しでも感じ取っていただき、それぞれの「都市をつくる仕事」を生み出すきっかけとなれば幸いである。
 本書は大変多くの方々のご協力のもとに成り立っている。多忙を極めるなか、仕事の内容をつぶさにお話いただき、また忌憚のない議論の場をつくって頂いたゲストスピーカーの皆さま、私たちの活動の趣旨にご理解をいただき、インタビューやアンケート等に快く応えて頂いた皆さま、本研究会を温かく見守りつつ適切なご指導を頂いた日本都市計画学会関西支部創立20周年記念事業実行特別委員会の増田昇委員長、小浦・澤木・渡瀬副委員長をはじめとする委員の皆さま、そして、企画段階からアドバイスを頂いた学芸出版社の前田裕資氏、井口夏実氏、さらに、研究会のメンバーとしても労をともにしつつ編集にあたっても多々ご尽力頂いた中木保代氏、本書の意図を見事に汲み取り素晴らしいデザインにまとめて頂いた原田祐馬氏、山副佳祐氏、皆さま一人ひとりにここに記して最大限の感謝の言葉を贈りたい。皆さまとのやり取りの中から「都市をつくる仕事」は一人ではなし得ないということを改めて実感することができた。また、それと同時に、多くの人を巻き込みながら都市の魅力をつくり共有していくことの醍醐味を味わうことができたことはメンバーにとって何よりの貴重な経験であった。
 人口減少をはじめ社会全体が大きな転換期を迎えるなかで、「都市をつくる仕事」には課題の変化にあわせた柔軟な対応が求められている。一つのきまった答えがあるわけではなく、都市に寄り添い、課題の本質と深く向き合うことでその解決に向けた糸口を見つけ出すような試行が続けられている現状は、本書で見てきた通りである。
 このような都市への関わり方の変化について本書を取りまとめている最中に、東日本大震災が発生した。それぞれが生きることと自分にできることを問い直しながら、都市や仕事とは何かということを改めて深く考えさせられた。身の回りの空間ばかりでなく、生活や仕事、そして過去の記憶までを含めた人々の営みのすべてが一瞬にして失われてしまった状況に対して、「都市をつくる」ことは、これからもさらに大きく意味を変化させていくだろう。本書の内容は震災以前の活動に基づくものであるが、ここで紹介した人たちの仕事を通じた都市への関わり方は、これからの都市をつくることへのヒントが数多く含まれていると確信している。被害に遭われた皆さまに、謹んでお見舞いを申し上げるとともに、多くの読者が「都市をつくる仕事」の本質的な意味と向き合い、それぞれの想いを胸に都市への多様な関わり方を模索し、活動の輪をひろげていくことで、被災地の一日も早い復旧・復興と生活を支える魅力ある都市づくりに、ともに貢献してくれることを切に望んでいる。
 私たちに求められていることは、このような現在進行形の「都市をつくる仕事」の変化を丁寧に追いながら、プロフェションとしてのそれぞれの能力を高め、人と人、仕事と仕事のつながりのなかで、積極的かつ柔軟に都市づくりの実践を積み重ねていくことではないだろうか。
 「都市をつくる仕事」に終わりはない。さらなる仲間たちが現れ、多様な都市への関わり方が増えていくことで、都市と私たちの生活がより魅力的なものになることを信じている。

次世代の「都市をつくる仕事」研究会を代表して
山崎義人・武田重昭・大庭哲治